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「ハンセン病」補償法成立 
根強い偏見・差別の解消が課題

神原里佳|2019年12月24日12:15PM

実名で被害体験を語る家族訴訟原告の吉澤さん。11月21日、福岡市で。(撮影/神原里佳)

ハンセン病の元患者家族に対し、国が補償金を支払う補償法と名誉回復を図る改正ハンセン病問題基本法が11月15日に成立した。補償対象者は全国に約2万4000人いるとみられ、来年1月末にも支給が開始される。しかし補償額は元患者の親・子・配偶者で一律180万円、兄弟姉妹らで一律130万円とわずかな金額にとどまった。福岡市の家族訴訟弁護団の一人、池田泉弁護士は「(熊本地裁の)判決を大きく上回る金額になったことは評価するが、90年もの間、隔離政策を受けてきた元患者家族の苦しみに見合う金額ではとてもない。原告への心ない批判もあり、偏見・差別はいまだ根強いと感じる」と語る。

今後の闘いを見据え、同21日には福岡市でハンセン病家族訴訟を支える市民の会福岡が主催する学習会が開かれた。原告2人が出席し、自らの差別体験をときに言葉を詰まらせながら語った。

父が国立療養所「菊池恵楓園」(熊本県合志市)に入所していた吉澤穣司さん(62歳)は、小学生の時、同級生から「らい病の息子には寄ったらいかん」と言われ、半年間学校に行けなくなった。「父のことが大好きだったから、世間から非難される存在だったのかと知り、ショックだった。何も悪いことをしていないのになぜ? と。今でも思い出し、許せないという思いがわく。大人になり、知人と一緒にたまたま恵楓園の近くを通った際、『ここはアレがあるから誰も近づかん』と言われたことも忘れられない。弟は結婚が破談になった。日常生活の中で、ふとしたときにむき出しの悪意が襲ってくる。それが耐えられなかった」と悔しさをにじませた。

同じく父が菊池恵楓園にいた女性Aさんは、あまりに辛い経験からこれまでハンセン病問題に関わってこなかったが、国が控訴断念した後、閉ざしていた口を開くようになった。しかし、いまだに顔や名前は公表できない。「結婚して子どももいるが、父が病気だったことは家族にも言えない。裁判所に近づくことさえ怖い」と言う。「患者家族ということで、子どもの頃から人として扱われなかった。友達もできず、先生にさえ授業で手を挙げても無視された。ある時、飼っていた犬が裏山で木に吊るされ、傷だらけになって死んでいた。また、家族で出かけて帰ってきてみると、家に火をつけられていたこともあった。なんでこんな目に遭うのか。この悔しさは言葉にできない。高校で家を離れ、やっと友達ができたが、父のことは話せなかった。知られることが恐怖だった。今でも地元の地名を口に出すだけで苦しくなります」と、Aさんは声を振り絞った。

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