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強制不妊訴訟で初判決 
旧優生保護法「違憲」だが国の賠償認めず 仙台地裁

岩崎眞美子|2019年6月18日12:01PM

仙台地裁前には傍聴券を求めて486人以上が集まり、関心の高さが窺われた。(撮影/岩崎眞美子)

「原告らの請求をいずれも棄却する」。仙台地裁の中島基至裁判長が主文を読み上げると、傍聴席のあちこちで怒りと悲しみに満ちたため息が聞こえた。

「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」とした旧優生保護法(1996年廃止)に基づく強制不妊手術を受けた宮城県の60代と70代の女性2人が、国を相手に損害賠償を求めた訴訟。その判決が5月28日、仙台地裁で言い渡された。判決は旧法の違憲性を初めて認定した一方、損害賠償請求を棄却する不当なものだった。

旧優生保護法が幸福追求権を保障する憲法13条に違反することをはっきりと認め、かつその法意に照らし、人格権の一内容として「リプロダクティブ権(子を産み育てるかどうかを意思決定する権利)」が尊重されることを明確に認めたことは非常に大きい。しかし、違法性を厳しく追及する一方で賠償を認めない判決は矛盾に満ちており、原告や支援者も納得できない思いをにじませた。

判決では、中島裁判長が、原告をはじめとする強制不妊手術を受けた人々が、いかに幸福追求権を一方的に奪われ、尊厳を踏みにじられてきたかに長く言及し「まことに悲惨というほかない」と述べた。また、旧優生保護法が廃止されてからの20年、つまり損害賠償請求権がなくなるこの20年の「除斥期間」の間においても、周囲や社会の無理解、プライパシーの問題、差別の問題などゆえに優生手術を受けた者が賠償請求をするのが困難であった状況も認めた。そしてその権利行使の機会を作るための立法措置を執ることは「必要不可欠であると認めるのが相当だ」とも述べた。

「やはり判決は原告勝訴?!」

傍聴席で判決を聞いていた誰もがそう思うほど、裁判長は長々と原告側の主張の正当性を述べた。にもかかわらず、立法内容は国会の合理的裁量に委ねられている事項であること、そしてリプロダクティブ権を巡る法的議論の蓄積の少なさや過去の司法判断のなさを理由に「立法措置を執ることが国会にとって明白だったというのは困難」であったとし、国家賠償法上における国の立法不作為は認めず、賠償請求も認めないと結論づけた。

【国の勉強不足を批判する声】

「平成の時代まで根強く残っていた優生思想が正しく克服され、新たな令和の時代では誰もが差別なく幸福を追求することができ、国民ひとりひとりの生きがいが真に尊重される社会になり得るように」

これは閉廷前の裁判長の言葉だ。この言葉に、原告の義姉として裁判を支えた佐藤路子さん(仮名)は強い違和感を示す。

「令和でなくても何の時代でも差別のない社会は当たり前のこととして成立すべき。性と生殖の権利はずっと私たちにあったものです。20年も前から訴えてきたし国会でも論じてきたのに国(政府)は勉強不足です。きちんと裁判して判決を出してほしかった」

旧優生保護法が母体保護法に改正された翌97年から立ち上がった、強制不妊手術への謝罪と補償を求める市民団体「優生手術に対する謝罪を求める会」の大橋由香子さんもこう語る。

「リプロダクティブ権について議論がされてこなかったというが、母体保護法改定時の付帯決議に『リプロの観点から適切な措置を講ずること』とあります。国連の国際人権規約委員会や女性差別撤廃委員会はそれぞれ日本政府に優生手術の被害者に対する補償措置などを勧告しています。知らなかった、議論の機会がなかった、で済まされる話ではありません」

原告側は今回の判決を不服として5月31日に控訴した。現在全国で20人の原告が全国7地裁に14の訴訟を起こしている。

「救済原告を抱える弁護団として被害救済をきちんと求めていきたい。4月24日に議員立法で成立した強制不妊救済法が第一歩としたら二歩目は控訴審で取る。国が救済が必要不可欠なものと認めたことは大きいし、今後じっくり控訴審の主張を詰めていきたい」(新里宏二弁護団長)

(岩崎眞美子・ライター、2019年6月7日号)

 

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