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1機180億円「F35A」は未完成? 
最新ステルス機墜落事故の背景は

半田滋|2019年5月10日11:32AM

防衛省。(撮影/編集部)

航空自衛隊の最新鋭戦闘機「F35A」が青森県沖で訓練中に墜落した。同型機の墜落は世界で初めて。事故機の操縦士は「訓練中止」との無線通信から間もなく消息を絶っており、機体に何らかの不具合が発生した可能性がある。

防衛省は11日の衆院総務委員会で、事故機は過去2回、飛行中に不具合が発生し、緊急着陸していたことを明らかにした。墜落の状況と照らすと事故機は何らかのトラブルを抱えていた疑いが浮上している。

事故原因の解明はこれからだが、難航が予想される。米国で開発されたF35Aはレーダーに映りにくいステルス性が特徴で、各国ともその技術の獲得に懸命になっている。次期戦闘機の開発を進める日本も例外ではない。

米政府は日本側に機体の秘密が漏れないよう、三菱重工業小牧南工場(愛知県)で組み立てたF35Aの最終検査を日本側を排除した建物内で米側だけで行なっている。墜落したのは同工場で組み立てられた1号機で、最終検査の後、米国に運ばれ、製造元のロッキード・マーチン社でも検査を受けた。

機体構造の秘密を開示されていない日本側に単独で事故を調査する能力はなく、米政府に協力を依頼した。米側にとって不都合な事実が事故原因として浮上した場合、正確な調査結果を日本側に伝えないことも予想される。

航空自衛隊は安全性に確信が持てないまま、F35Aを使い続けることになりかねないのだ。

問題はまだある。米会計検査院(GAO) は2018年1月、F35に未解決の欠陥が966件あると発表した。欠陥のうち、111件は「安全性や重要な性能を危険にさらす問題」だった。17年6月には、米国で飛行中のF35Aで操縦士が酸素不足に陥る事例が5件発生。いずれも低酸素症のような症状を示したという。

【未完成機を大量購入する愚策】

1000件近い欠陥を抱え、ひんぱんにトラブルを起こしているのはF35が未完成の機体だからだ。空軍のA型、海兵隊のB型、海軍のC型と軍種ごとに異なる性能要求を同じ機体に盛り込んだ結果、開発が難しくなり、開発を始めて20年近く経過した今も完成していない。

米軍は未完成機を部隊に配備し、飛ばしながら改修を続けており、もっとも重要な「安全性の確保」を置き去りにしている。また、それはステルス機を渇望し、まともな選定作業を抜きにしてF35Aを導入した航空自衛隊にも共通する問題といえる。

機種選定に際し、当時の田母神俊雄航空幕僚長はステルス機について「のどから手が出ている」と露骨に心証を示した。結局、F35Aがライバル機との競合で不利にならないよう飛行テストを避け、カタログ性能だけでF35Aを選定した。

足元を見透かした米政府は、価格、納期を一方的に米政府が決める「対外有償軍事援助(FMS)」で売ることを決め、機体価格を最高で1機180億円までつり上げた。さらに国内製造を「組み立て」に限定し、今回の事故解明の障害にもなる条件を突きつけ、日本政府はこれらを丸呑みした。

問題の原点は、不透明・不公正な機種選定にあったのだ。

安倍内閣は昨年12月の閣議了解で、調達予定の42機を105機へと大幅に増やすことを決めた。さらに空母化される護衛艦「いずも」に搭載するため、垂直離着陸ができるF35Bも42機導入することにした。このF35Bにはすでに墜落の前例があり、昨年9月、米サウスカロライナ州で米海兵隊機がエンジン燃料管の不具合によって墜落している。

今回の事故を受けても政府は現時点で追加購入の方針を変えないとしている。安全性に確信が持てない戦闘機を飛ばし続けるのは、隊員や住民の生命を軽視するのと同じことである。

事故原因が判明するまで飛行訓練の中止を続けるのはもちろん、追加購入を断念するべきだろう。

(半田滋・『東京新聞』論説兼編集委員、獨協大学非常勤講師、2019年4月19日号)

 

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