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被曝基準緩和に使われる宮崎・早野論文に不正嫌疑

藍原寛子|2019年3月1日11:41AM

2月4日、伊達市であった市被曝データ提供に関する調査委員会の初会合。(撮影/藍原寛子)

東京電力福島第一原発事故後、福島県伊達市の住民の外部被曝線量を分析した福島県立医科大学の宮崎真講師と東京大学大学院の早野龍五名誉教授の論文(宮崎・早野論文)に重大な嫌疑が生じている。同論文は、被曝基準を緩和しても「健康影響はない」という政策にお墨付きを与えているだけに、両氏がそれぞれ所属する2つの大学で被験者の同意の有無などを検証する動きが加速している。

宮崎・早野論文に「被験者となる市民の同意のないデータが含まれている」と市民から申立があったのは昨年だった。

この論文では同市住民の9割に当たる5万9056人が研究に参加。ガラスバッジを携帯して測定された放射線量から被曝量を分析した。昨年9月と12月の市議会で伊達市は「測定者は5万8481人。そのうち同意者は3万1151人、不同意は97人、未提出は2万7233人」と答弁。46・5%が同意書未提出だと明らかにした。

高エネルギー加速器研究機構の黒川眞一名誉教授らは『科学』(岩波書店)2月号掲載の「住民に背を向けたガラスバッジ論文」で、「データ提供に同意していない市民のデータを使用」「研究実施前に市民に研究内容を公知せず同意撤回の機会を与えなかった」「伊達市長室から論文作成を依頼されたことを隠していた」など7点の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」違反を指摘した。

【解明するのは簡単】

伊達市は2月4日、同市から宮崎・早野両氏への個人情報提供が個人情報保護条例等の法律や規則等の手続きに抵触しないか、研究倫理から適正かどうかを検証する独立の第三者による「伊達市被ばくデータ提供に関する調査委員会」(委員長・駒田晋一弁護士)を発足させ、本格検証に入った。

伊達市議会は市の調査委員会開催を受けて同日、会派代表者会議を開き、今後、論文を執筆した宮崎・早野両氏と、問題を提起した黒川氏を招いた「勉強会」を開催すること、「市の調査委員会の結果に納得がいかない場合には、議会の特別委員会を設置して調査を進める」など、真相究明を続けていくことを確認した。

同日、市内で開かれた議会報告会に出席した市民からは、「論文に自分のデータ使用を許可・同意した覚えはない」「ガラスバッジの結果を論文に使うという説明を全く受けていなかったので、受け取ってもその辺に置いたままにしていた。データ自体が正しく測定されていないのではないか」と論文に疑義を唱える声が挙がった。

一方、住民同意がない個人情報を論文に使った可能性について昨年、住民から申し立てを受け、論文不正調査に入るかどうか「予備調査」をしていた東京大学は同日、当事者からの聞き取り調査も含めた「本格調査」に入ることを決定した。申立人代理人の柳原敏夫弁護士は「不正の有無を調べるだけの十分な理由があると判断されたことは重要なことだ。ただ、本格調査に入るか否かを決める期限の原則1カ月より、かなり遅れた。相当な議論があり紛糾したことが推測される。東大としても、ちゃんと調べないとマズいということになったのではないか」と語った。

東大同様に申立を受けた福島県立医科大学は2月7日、「調査を本格的に進めるか否かの検討中で、近く結論を出す」という。

筆者の取材に対して、早野名誉教授は2月8日、「本格調査に入っておりますので、コメントは差し控えます」とメールで答えた。

同意書の問題の解明には、科学の専門知識や複雑な方程式は要らない。論文の共著者が、日付の入った被験者自筆署名入りの同意書の束を示すだけで良い。仮に同意取得の簡略化が倫理審査委員会で認められていたとしても(筆者は発見できていない)、調査前と後の被験者説明会の日時や場所などの広報や、議事録など記録を示せば良い。「ないものを証明せよ」などという難解な「悪魔の証明」は、この論文疑惑解決の“方程式”にはあてはまらないのだから。

(藍原寛子・ジャーナリスト、2019年2月15日号)

追記:福島県立医科大学も2月21日、研究不正調査委員会を設置して、本格調査に入ることを決定した。

 

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