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アベノミクスは1勝5敗

高橋伸彰|2019年2月1日7:00AM

名目1勝5敗、実質2勝3敗1分け。アベノミクス6年間に及ぶ政府経済見通しの星取り表だ。実際、2013年度から18年度にかけて政府見通しの成長率が実績(18年度は見込み)を上回ったのは、名目が2015年度の1回、実質が2013年度と17年度の2回に過ぎない。それにもかかわらず、安倍晋三首相は今年の年頭所感で「6年が経ち、経済は成長し」と語り、「成長」の成果を強調した。

仮に、政府見通しどおりの成長率が実現されていたなら、2012年度に名目494.4兆円、実質499.3兆円だったGDP(国内総生産)は、2018年度には同583.3兆円、同554.2兆円に拡大し、実績見込みの同552.5兆円、同536.5兆円をそれぞれ30.8.兆円、17.7兆円も上回る計算になる。

安倍首相は政権復帰直後の2013年1月11日の記者会見で民主党時代の政策を「縮小均衡の再分配」と批判し、自らの政権では「成長による富の創出」へと大胆に転換を図っていくと豪語したが6年間の成果を振り返れば政府見通しと実績の差額分だけ「公約違反」を犯したことになる。

だが、誤りを認めず、現実を直視せず、楽観的な数字を挙げて、自らの成果を喧伝するのは安倍政権の真骨頂である。昨年12月18日に閣議決定された2019年度の政府見通しを見ても名目2.4%、実質1.3%と、民間調査機関の平均(第一生命経済研究所調べ)同1.6%、同0.7%に比し高めの見通しとなっている。

この顛末がどうなるのかは、2018年度の当初見通しと実績見込みを比較すれば透けて見えてくる。1年前の当初見通しでは名目2.5%、実質1.8%と強気の数字を挙げたが、実績見込みでは名目、実質とも0.9%と大幅に下方修正されたからだ。

それでも、安倍政権は「我が国経済は、緩やかな回復が続いている」と主張し、見通しが実現できなかったのは昨年の「夏に相次いだ自然災害」のせいだと抗弁する。大阪や北海道で発生した大地震や、西日本を襲った大型台風の被害が深刻だったのは事実だが、それだけで日本全体の民間最終消費が当初見通しと比べて5兆円近くも減少するという説明には無理がある。

事実、2014年4月の消費税引き上げ後に消費の停滞が長引いたときも、安倍政権は駆け込み需要の反動減と天候不順が主因だと当初説いていたが、翌2015年11月27日に至って賃上げ不足による実質所得減少の影響が年度を通して2兆円台半ばもあったという試算結果(経済財政諮問会議資料)を公表した。つまり、2014年の春闘で増税をカバーするだけの十分な賃上げが行なわれていれば消費の落ち込みは抑えられ、消費増税延期の是非を大義にした14年12月の総選挙は回避されていたかもしれないのだ。

言うまでもなく、賃金は労働者が主体的に団結し経営者と交渉して要求を実現しなければ上がらない。その意味で戦後最長の景気拡大が視野に入るなかで消費が停滞を続ける背景には、労働組合が本来の使命を果たしていないことも影響している。今年10月には消費税率のさらなる引き上げが予定されているが、その影響を緩和するのは政権主導の「バラマキ」対策ではなく、労働組合主導の賃上げであることを忘れてはならない。

(たかはし のぶあき・立命館大学国際関係学部教授。2019年1月11日号)

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