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「いずも」が「攻撃型空母」に? 
自民部会案採用で米国製武器大量導入

半田滋|2019年1月23日10:16AM

首相官邸。(撮影/編集部)

2018年12月18日にあった次期「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」の閣議決定に合わせて、同日、閣議了解が1件あった。

「F35Aの取得数42機を147 機とし、平成31年度以降の取得は、完成機輸入によることとする。(略)新たな取得数のうち、42機については、短距離離陸・垂直着陸機能を有する戦闘機の整備に替え得るものとする」

この閣議了解にはいくつもの問題が含まれている。F35Aは老朽化したF4戦闘機の代替として42機の導入が始まっている。105 機も追加するのは、F15戦闘機のうち改修不能なタイプの99機と入れ換えるためだ。しかし、F15の退役時期はまだ決まっていない。十分使えるにもかかわらず、退役させる。機体は廃棄するか、安倍晋三政権下で解禁された武器輸出の候補となるほかない。

また防衛省は、F4後継の42機分を国内で組み立てるため、三菱重工業など防衛産業3社に1870億円を支払い、生産ラインを完成させている。だが、価格は米政府が一方的に決める対外有償軍事援助(FMS) 方式。結局、米政府は完成機の輸入より50億円以上も高い1機150億円の値をつけた。高すぎるので国内組み立てを止め、米国からの輸入に切り換える。防衛省が掲げた「国内企業参画」の目標を捨て、生産ラインに投じた巨額の費用もドブに捨てるというのだ。

米政府から購入する105機分の総額は安く見積もって1兆2000億円。トランプ米大統領が嬉々として「日本がすごい量の防衛装備品を買ってくれる」と話したのはこのことだ。日本政府は面白いように米政府の罠にはまり、米政府のいいなりのままである。

【弾道ミサイル導入も決定】

だが、安倍内閣は国内向けには強気を見せる。「短距離離陸・垂直着陸機能を有する戦闘機」とは次期大綱で空母化する「いずも」型に搭載できるF35B戦闘機を指す。そのF35Bを42機も導入するのだから、「いずも」は、これまで政府が「憲法上、保有は許されない」としてきた「攻撃型空母」そのものとなる。

これを「護衛艦」と呼ぶのは、「敗走」を「転進」と言い換え、「全滅」を「玉砕」とごまかした旧日本軍と変わりない。

「専守防衛」と言い続けても、どの国も信じないだろう。大綱、中期防では「敵基地攻撃」を可能とする米国製の長距離巡航ミサイルや国産の島嶼防衛用高速滑空弾という名前の事実上の「弾道ミサイル」まで導入が決まった。

自衛隊と米軍との間で電子情報のネットワークを確立させ、米国を狙った弾道ミサイルを自衛隊のイージス護衛艦が迎撃する「集団的自衛権行使」も磐石にする。もはや「憲法改正の必要がない」と思えるほどの軍事立国ぶりだ。

こんな勇ましい内容となったのは、「政治家」が主役となったためである。これまでの大綱は、防衛省で原案を策定してきたが、今回は安倍政権で首相官邸に新設された国家安全保障会議とその事務局で策定した。

主役が防衛官僚・自衛隊制服組から政治家へと替わり、これまで防衛省に無視されてきた自民党国防部会による「大綱提言」が丸ごと採用された。

政治が軍事を統制するシビリアン・コントロール(文民統制)は重要だ。だが、建国以来、文民統制を採用する米国が第2次世界大戦後、誤った戦争を繰り返してきた事実を振り返ると、日本の近未来を映しているように見える。

大綱、中期防により、自衛隊は米国製武器を大量に買い、空母も保有し、「敵基地攻撃」能力を身に付けることになる。軍事の素人の政治家が「武器を買ってやるからこれで戦え」と軍事のプロの制服組に命じたのに等しい。戦争を止めるはずの政治家が戦争を加速させようとしている。

軍事力を強める中国に力で対抗しようというのだから、もはや平和外交など死語も同然。「専守防衛」「他国に脅威を与えない」といった防衛の基本方針は偽りの看板になりつつある。

(半田滋・『東京新聞』論説兼編集委員、獨協大学非常勤講師、2019年1月11日号)

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