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元貴乃花親方の
政治利用はあるのか!?

佐藤甲一|2018年12月28日5:33PM

貴乃花応援会の公式サイト

11月最初の日曜日、大相撲九州場所を前に、開催地近くの福岡県田川市のお祭りに参加する花田光司氏(日本相撲協会を退職した元貴乃花親方)の様子をニュースで見た。協会との軋轢(あつれき)の渦中にあった当時と比べると、なにやら「憑き物」が落ちたようにも見える。

はたしてこの姿が真実なのか、それとも擬態なのか。なぜ気にかかるかと言えば、来年の参議院選挙をきっかけに花田氏の「政界入り」があるかにかかわるからである。10月4日にはスポーツ界出身で文部科学大臣を務めた自民党の馳浩衆議院議員と会談し、馳氏から「お世話になった人にはきちんと挨拶した方がいい」とアドバイスを受けただけに、なおさらである。

今年は、スポーツ界の不祥事が続出した。団体内部だけで通用してきた「ルール」は社会の「規範」から大きく外れていることがある。インターネット社会はこうした内部に溜まった「澱(おり)」の存在を暴き出したと言える。危険タックルをきっかけに明るみに出た日本大学アメリカンフットボール部の運営、補助金不正流用問題で浮上したアマチュアボクシング界のいびつな支配構造、女子体操界における「暴力指導」問題など、そして何より明確になったのは競技団体の不祥事に対し国が是正に向けて指導する権限がない、という構造である。

自民党は11月1日、行政改革推進本部を開催し、スポーツ団体をはじめとする公益法人の在り方などを検討するチームの設置を決めた。詳細な議論はこれからだが、スポーツ基本法制定などに奔走してきた遠藤利明元オリンピック担当大臣ら自民党の「スポーツ議員」たちの狙いは明確だ。スポーツ庁に競技団体への是正勧告などの権限を付与し、国が競技団体全般を「支配下」に置くことにある。

まさにスポーツ政策をテコにした現在の「富国強兵」政策の復活と言えまいか。スポーツ界には1980年のモスクワオリンピックボイコットなど政治の介入を許した痛恨の過去がある。しかしいまや東京オリンピックをはじめとする競技団体向け選手強化費は年100億円規模にまで膨らみ、国民の税負担に基づいた強化策はなし崩し的に進んでいる。

そして国民の多くもまた、無定見にスポーツによる「国威発揚」に肯定的だ。その証拠にスポーツ関連予算の「使いすぎ」「見直し」という批判は与党のみならず野党からすらも出てこない。

むしろ、税金を用いる以上なんらかの「チェック」は必要だという声が根強い。さらに、予算の資金の配分は競技団体を統括する日本スポーツ協会だけでは決められず、日本スポーツ振興センター(JSC)との合同協議で決められる。JSCは文部科学省からの出向者も含む国の外部組織であり、もはやスポーツ界を資金の面でにらみを利かせる存在である。税金投入の「根拠法」であるスポーツ基本法を推進した議員たちが思い描く、スポーツの「国営化」のシナリオが寸分違わず進んでいると言えよう。

花田氏が相撲界でとった行動は賛否両論あろうが、「改革者」たらんとしたことは明確である。こうした花田氏のイメージを用いて参議院選挙の「目玉」にするとすれば、これもまたスポーツの政治利用、「国営化」の動きと言わざるを得ない。

(さとう こういち・ジャーナリスト。2018年11月16日号)

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