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朝鮮学校「無償化」訴訟は原告敗訴 
『産経』記事など判決に影響か 東京高裁

中村一成|2018年11月22日11:19AM

10月30日、敗訴を知らせる原告代理人の弁護士。(撮影/中山和弘)

それは裏切りに等しかった。判決要旨の読み上げ後に投げつけられた傍聴席からの怒号「卑怯者!」が、その酷さを物語っていた。

朝鮮学校の高校無償化排除は違法だとして、東京朝鮮中高級学校の卒業生61人が国を相手取り、計610万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京高裁(阿部潤裁判長)は10月30日、原告敗訴の一審判決を支持、控訴を棄却した。

全国5カ所で提起された訴訟の一つ。高裁段階での判断は今年9月27日、原告逆転敗訴が言い渡された大阪に次いで2例目となる。広島、愛知は地裁で敗訴、現在、高裁で係争している。福岡(地裁小倉支部)は来年3月14日に判決が出る。

高校無償化は民主党(当時)の肝煎り政策だったが、同党は朝鮮学校のみ適用を棚上げ。2012年に自民党が政権復帰すると、文部科学相の下村博文氏(当時)は「拉致問題の進展がみられない」などとして、根拠規定の「ハ」(対象の外国人学校を3分類した一つで、朝鮮学校が該当)を削除、不指定とした。「北朝鮮叩き」を生命線にする第2次安倍政権の「初仕事」、無償化法の目的「教育の機会均等」に反する暴挙だった。

原告はこの違法性を主張。一方で国側は、主な不指定理由は、「ハ」該当校の審査基準の一つ「規程13条」(学校の適正運営)に「適合すると認めるに至らなかったこと」と反論した。端的に言えば朝鮮総聯に「不当な支配」を受ける朝鮮学校は支援金流用の「恐れ」があるというのだ。これは「処分通知」段階で規定削除と並べて唐突に持ち出してきた、恐らくは「訴訟対策」の「理屈」だった。

その立証は『産経新聞』や公安調査庁の「作文」を駆使した「反社会的存在」のイメージ作りだ。内容は国自らが「ヘイトスピーチ解消法」で違法とした差別煽動そのもの。国が血眼になって子どもの学び舎を貶める。まさに「常軌を逸した」訴訟対応だった。一連の法廷闘争は、レイシズムと歴史改竄を旨とする日本の地金をあぶり出した。だが、あろうことか各地の裁判官もそれに追従、唯一の勝訴だった大阪地裁以外は、全てその「官製ヘイト」を書き写した。

【かなわなかった逆転勝訴】

だが東京高裁は違った。裁判長自ら「規程13条」論における時系列の矛盾を指摘、通知に書かれた二つの理由の整合性について、1時間にわたって国側を詰問した。

不指定の行政処分が効力を発するのは、それが本人(学校側)に届いた段階で、この場合は13年2月21日だ。一方で上位規定の「ハ」削除は20日に官報告示されている。処分の段階で実は13条は存在しなかった。裁判長から、説明を求められた国側はなんと二つは「論理的には両立しえない」と回答。そうなれば排除は、規程ハが削除されたためでしかありえない。この内容を判決文に落とし込みさえすれば逆転勝訴だった。

しかし判決は真逆だった。阿部裁判長は国側主張の矛盾を認めつつも、不指定処分の理由は「規程13条」であり、文科相の判断に「裁量権の逸脱・濫用があったとは認められない」と、原告敗訴のパターンを踏襲した。自ら広げた議論から逃げたのだ。挙句は「行政処分の成立と効力の発生は別問題」という国側が言わなかった解釈まで付加した。これは最高裁判例にも反する。「法と良心」どころか、自らの訴訟指揮すら裏切り、政権に阿った。

良心を擲った人間の「無様」はそれに止まらなかった。小声で早口に判決要旨を読み上げた阿部裁判長は、終了と同時に廷内の裁判所職員を柵の前に並べて防衛線を張り、まるでヘイトデモでカウンターを警戒する警官のように傍聴者を威嚇。「速やかに退席してください」と、職員と共に連呼した。「毒を食らわば皿まで」なのか。

地裁に次いでの敗訴、それでも夜の報告集会に1100人が駆け付けた事実は、8年間の闘いが開いた地平を表していた。そこでは闘いで培った連帯で「世論を変える」ことが提起された。「朝鮮学校、朝鮮人には何をしてもかまわない」と煽動する政府と、差別にお墨付きを与える司法は、この社会の産物に他ならないからだ。

(中村一成・フリージャーナリスト、2018年11月9日号)

 

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