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非営利系ニュース組織のアジア大会に伊藤詩織さん登壇 
ジャーナリストの役割とは

辻麻梨子|2018年10月25日10:20AM

10月6日、「#MeToo」セッションに登壇した伊藤詩織さん。(撮影/友永翔大)

72カ国の非営利・独立のニュース組織でつくる世界探査ジャーナリズムネットワーク(GIJN)が主催するアジア大会が韓国ソウルで開催された。10月4日から7日間の大会期間中に400人超のジャーナリストらが参加した。

6日にはアジアにおける#MeToo運動をテーマにしたセッションがあった。その日は米『ニューヨーク・タイムズ』紙の告発記事を契機に#MeToo運動が本格化してちょうど1年。被害者が声を上げづらい実態が報告され、ジャーナリストの連携が提起された。

【「自分で戦うしかなかった」】

セッションには約100人が参加。ほぼ満席だった。ジャーナリストで香港大学教授のイン・チャンさん、元『ニューヨーク・タイムズ』紙のドリーン・ワイゼンハウスさんのほか、日本からジャーナリストの伊藤詩織さんもスピーカーとして登壇。詩織さんは昨年、自らのレイプ被害を告発し、セクシュアルハラスメントの実態を明るみに出した。

詩織さんは現在英国ロンドンを拠点に活動する。優れた映像作品などを顕彰する米国ニューヨーク・フェスティバルの2部門で銀賞を受賞した。

スピーチで詩織さんは被害を記者会見で告発した当時、「被害者らしさ」を求められたと振り返った。会見後、反対に批判されることもあった。孤立感を感じた。街を歩くのが怖くなった。

レイプ被害を相談した警察はいったん捜査を拒んだ。その後捜査は始まったが、被害当時の状況の再現を求められたという。セカンド・レイプと指摘される状況だ。参加者から悲鳴が上がった。詩織さんは「証拠があったにも拘わらず不起訴になった」と指摘。逮捕状が取り消された不可解さを参加者に訴えた。

「レイプは家族やコミュニティとの関係性もすべて崩壊させる兵器になる」

傷は今も癒えない。今回宿泊したホテルの部屋に入ると「あの日の恐怖が蘇った」と語った。

「自分の身に起こったことを『自己探査報道(セルフ・インベスティゲイション)』する必要がある。私はジャーナリストだから」

【会場で生まれた#MeToo運動】

質疑応答では、パキスタンの女性ジャーナリストがマイクの前に立った。

「私は質問しないけど、ただ『私も(me too)』と言いたい」

そして自らの体験を語り始めると、すぐに涙声になった。

「私は9歳の時に近所の人から性暴力被害に遭った。これまで家族や友人に話をしても、相手にしてもらえなかった。いつも近くに加害者がいて、本当に怖かった」

彼女は詩織さんに「あなたは一人じゃないと伝えたかった」と語りかけた。詩織さんは席を立った。彼女に近づいた。抱き合った。会場から拍手が起こった。他の登壇者とも次々と抱き合った。

【SNSで「#MeToo」不可?】

被害者が声を上げづらい状況はアジアで共通する特徴だ。チャンさんの調査で、中国の女性記者の83・7%がセクシュアルハラスメントの被害を経験、その被害が報道されたのは3・2%にとどまることがわかった。ロシアなどでも同様の傾向があるという。「#MeToo」という言葉がSNSで使用できなくなったことも紹介。人々は米(中国語でmi)とウサギ(tu)の絵文字を使い、#MeToo運動の意思表示を続けたという。

チャンさんは「人々は非常に賢く、強い意志を持っている。ジャーナリストは被害者と共に戦わなければならない」と語った。

セッションではほかに、ワイゼンハウスさんが「米国では報道を契機に文化転換が起こり、欧州では法整備も進んだ」と話し、報道の重要性を訴えた。

司会を務めたジャーナリストでGIJNのアン・コッホさんはセッションをこう締めくくった。

「勇気ある告白とジャーナリストの報道で、少しずつ世界を変えることができると感じる」

(辻麻梨子・ジャーナリスト/ワセダクロニクル・リサーチャー、2018年10月12日号)

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