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日本経済を殺す日本銀行の自縄自縛

浜矩子|2018年9月4日7:00AM

自縄自縛とはこのことだ。それが、今の日本銀行の状況だ。もはや、彼らを「日銀」と呼ぶべきではない。その確信を深める日々だ。

彼らが2016年1月以来のマイナス金利政策を続ければ続けるほど、金融機関の経営が圧迫される。この問題が盛んに指摘されるようになっている。だが、問題はそればかりではない。超低温金融環境が延々と続く中で、人々の行動が異様な様相を呈してきている。一つには、家計の現金保有率がどんどん高まっている。爆買いならぬ爆現金保有だ。預貯金金利がほぼ存在しなくなっているからだ。

スズメの涙どころの話ではない。ミミズの涙、しかも超小型ミミズの涙程度しか、金利が付いてこない。その上、日銀が問題にしている金融機関の経営圧迫問題もある。銀行にカネを預けておくのはどうも危ないかもしれない。こんな悪条件が重なれば、人々が手元に現金をしまい込んでおく方が無難だと判断して当たり前である。だが、人々が現金をタンス預金してしまえば、カネは天下を回らない。カネが天下を回らない経済は死にいたる。

国債市場も死んでいる。日銀が10年物国債の利回りをゼロ%に誘導することを政策目標にしているからだ。国債の値動きを政策が殺しにかかっているのである。

株式市場もまた、死んでいる。なぜなら、いまや日銀が突出して大きな存在になってしまっているからだ。年間6兆円という巨額の資金を日銀が株式市場に投入している。一機関投資家の投資規模としては、破格に大きい。

そもそも、中央銀行が株を買うなどということは、よほどの緊急時でなければ、まず、考えられない。まともな中央銀行なら、原則論的に手を染めない行為だ。かくして、日本の株価は、今や日銀が許容する範囲でしか動かない。まったくの死に体である。相場水準がどうなるかということには、もはや、まったく何の意味もない。

かくして、日本経済はその各部位において壊死に追い込まれつつある。完全に朽ち果て切る前に、政策を転換する必要がある。だが、日銀にはそれができない。

さらに大きな問題なのは、彼らが政策転換できない理由を誤解しているからだ。それならまだいい。実は、真の理由を隠ぺいしているのかもしれない。そうであれば、間違いなく、中央銀行という位置づけを返上してもらわなければならない。

日銀の執行部や審議委員の面々は、政策転換が円高を招くことを心配しているらしい。かりに長期金利のゼロ%目標を引き上げるとすれば、アメリカとの金利格差縮小を展望した円買いが増える。つまり、円高になる。円高は物価引下げ要因だ。すると、2%の物価上昇目標が遠のく。それはまずい。だから政策転換は難しい。彼らはそう考えているのだという。

だが、問題はそのように生やさしい話ではない。日銀が、今の国債大量購入や巨額の株式投資を止めれば、国債も株価も大暴落する。だから、彼らは始めてしまったことを止められない。だが、それを続けていれば、日本経済は死ぬ。さあ、どうするつもりか。

(はま のりこ・エコノミスト。2018年7月27日号)

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