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花王に約2000万円の賠償命令 
工場勤務で化学物質過敏症に

岡田幹治|2018年7月30日12:01PM

敗訴した花王の本社ビル=東京・茅場町。(撮影/片岡伸行)

日用品の大手メーカー花王の元従業員が、職場で有害な化学物質にさらされ、化学物質過敏症(過敏症)になって退職を余儀なくされたとして損害賠償を求めていた訴訟の判決が7月2日、東京地裁であり、梅本圭一郎裁判長は花王の責任を認め、約2000万円の支払いを命じた。

花王は「判決を精査したうえで、対応を決めたい」としている。

元従業員の男性Aさん(51歳)は、1985年に花王・和歌山工場に入社し、93年から合成洗剤の原料などの検査分析業務を担当したが、間もなく頭痛・微熱・嘔吐・咳などの症状が出るようになり、2006年に過敏症の疑いが強いとの診断を受けた。

検査分析業務ではクロロホルムやノルマルヘキサンなどの化学物質(有機溶剤)を扱うが、換気が不十分なため、Aさんはそれらに繰り返しさらされ、有機溶剤中毒に罹患した後、過敏症に罹患したと専門医は診断している。Aさんは01年に検査分析業務を離れたが、その後も症状は続き、12年にやむを得ず自主退職した。

Aさんは13年に、治療費・遺失利益・慰謝料など約4700万円の損害賠償を求めて提訴。花王は賠償には応じられないとして争ってきた。

裁判の主な争点は以下の3点だったが、判決はいずれも花王側の主張をほぼ退けた。

まず、Aさんの業務と発症の間に「原因・結果の関係」があるかどうかについて判決は、業務の内容・発症の経過・医師による診断結果を総合的に判断すれば、因果関係を認定できるとした。

次に、花王は従業員を業務中に危険から保護するよう配慮する義務(安全配慮義務)を果たしていたかどうかについて、判決は(1)作業場の排気設備は不十分、(2)防毒マスクなど保護具も支給していない、(3)作業場の環境測定も実施していなかった――という3点で安全配慮義務を果たしていなかったと認めた。

第三の争点は、Aさんの損害賠償請求権がいつ発生したかをめぐるものだった。花王はAさんが中毒と過敏症に罹患した時期に請求権が発生したとし、それから10年以上経っているので、すでに時効が成立していると主張した。これに対して判決は、過敏症という病気の性質を考えれば「過敏症と診断された06年」に請求権が発生したと考えるべきであり、時効は成立していないと判断した。

【再現実験などで立証】

この判決について弁護団長の神山美智子弁護士は「医学的に未解明の部分がある化学物質過敏症について被害と原因を明確に認めた画期的な内容だ。この病気で苦しむ人たちの助けになるのではないか」と語った。

仕事で有害化学物質にさらされ、過敏症を発症する従業員は少なくないが、多くは泣き寝入りで終わっている。訴訟に訴えても因果関係の立証が難しい場合が多いが、この訴訟では、5人の専門医の診断書を提出し、さらに当時の作業環境の再現実験などにより、Aさんが大量の有機溶剤にさらされていたことと、それにより有機溶剤中毒を経て過敏症に罹患したことを立証した。

判決はまた、花王の主力工場である和歌山工場の作業環境がいかに劣悪であるかも明らかにした。Aさんによれば、検査分析業務を行なう部屋は室温が30度を超し、換気も全く不十分で、在社中に改善を繰り返し求めたが聞き入れられなかった。

退職後の2016年、和歌山労働基準監督署に申告したところ、同署が臨検し、法令違反があるとして是正を勧告した。判決はその事実を認めている。

消費者には製品の「安全」を宣伝しながら、自社の従業員の安全については配慮が不十分な企業は少なくない。この判決は、そうした企業への警鐘にもなっている。

(岡田幹治・ジャーナリスト、2018年7月20日号)

【編注】花王は控訴せず、判決は7月19日に確定しました。(7月30日)

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