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政府で年金改革の議論
焦点は給付カットと負担増

吉田啓志|2018年5月29日10:25AM

2020年の次期年金制度改革に向け、政府は見直しの議論をスタートさせた。

年金を受け取り始める年齢をいまの上限、70歳より引き上げることはほぼ固まっているが、それをどう設計するかが最大の焦点となる。

「人生100年時代というなら、オール・サポーティング・オールしかない。年齢を考えず、社会で生きている人すべてが社会を支え、困っている人に給付を集中する考え方に理念を転換しなければ、100年時代はカバーできない」

4月4日、年金改革の議論を始めた厚生労働相の諮問機関、社会保障審議会年金部会で、出口治明立命館アジア太平洋大学学長はこう指摘した。

現在の年金受給開始年齢は原則65歳。ただし、60~70歳の間で選べる。出口氏の発言は、高齢で働ける人は70歳を超えても支える側に回って保険料を払い、その分、受給開始年齢の上限も70歳より引き上げるよう訴えたものだ。

現行制度では、受給開始を65歳より1カ月繰り下げるごとに年金額が0・7%ずつ増える。70歳から受け取り始めると42%増となる。70歳まで待っても81歳まで生きれば元はとれる。一方で早めに受け取るようにすれば、1カ月ごとに0・5%減る。60歳からだと30%減だ。制度全体では、何歳から受け取り始めても受給総額は概ね同じになるよう設計されている。

「全世代型」の社会保障への転換を目指す政府は、2月に閣議決定した高齢社会対策大綱で、年金の受給開始年齢については70歳以降も選べるようにすることをうたった。70歳を超えて働く人は、引退後により手厚い年金を受給できるようにすることを意図している。現行制度のままだと将来、給付水準が今より2~3割減となる。受給開始年齢の上限引き上げは、こうした年金カットの影響を緩和する狙いも込められている。

受け取り始める年齢の幅を広げる際の焦点は、上限を何歳まで引き上げるかと、繰り下げによる上乗せ額を最大何割増にするかだ。財務省は受給開始年齢を68歳へと一律に繰り下げる案を検討しているが、国民の反発は強く、実現可能性は乏しい。受給年齢の選択肢を広げる案には、「野党も反発しにくい」(厚労省幹部)との楽観論もある。一定以上の労働収入がある高齢者の年金を削る現行制度の見直しとともに、改革議論の主流になりそうだ。

ただ、定年年齢が延び悩む中、2016年度に厚生年金の繰り下げ受給を選んだ人は1・2%に止まる。受給開始年齢の上限を一層引き上げるなら、働き方改革も進める必要がある。また、現行制度は65歳の夫が厚生年金を受け始めるモデル世帯の給付水準を「現役世代の平均的手取りの50%」と定めている。この「基準年齢」を65歳より繰り下げるなら、実質給付カットとなる。基準年齢をどうするかも議論の的になりそうだ。

【非正規雇用の対応も焦点】

このほか、年金支給額を物価の伸びよりも抑える「マクロ経済スライド」の強化も論点になる。さらに40年間保険料を払い続けても、給付が月6万5000円程度の国民年金をどう底上げするかも大きな課題だ。しかし、国民年金は無職や非正規雇用の人が加入者の多くを占め、財源難に見舞われている。非正規で働く人をより給付が手厚い厚生年金に加入させる「厚生年金の適用拡大」による対応が中心となる見通しだ。

それでも、負担増を巡る議論が難航するのは避けられそうにない。04年の年金改革では現役世代や、労働者と折半で保険料を負担する経済界に配慮し、厚生年金保険料率の上限を年収の18・3%に固定した。社会保障審議会の年金部会で、日本経済団体連合会(経団連)の牧原晋・社会保障委員会年金改革部会長は「負担面の対応は先行実現してきた」と訴えたうえで、「現行フレームのもとで保険料率の上限を維持するのを大前提に制度のあり方を考えていくべきだ」と強調し、経済界の負担増につながる議論に向かわないよう、のっけからクギを刺した。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、2018年5月18日号)

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