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強制不妊手術で国賠訴訟
原告側「障がい者差別をも問う」

岩崎眞美子|2018年4月18日12:47PM

3月28日、仙台地裁前で訴える原告団。最前列左から2人目が新里宏二弁護士。(撮影/岩崎眞美子)

「被告、国は、ここに至っても厚労省(厚生労働省)と同様に『当時は合法であり、謝罪も補償もしない』との主張を続けるのか」

3月28日、宮城県仙台地裁で開かれた、旧優生保護法下の強制不妊手術に関する国家賠償訴訟の第1回口頭弁論。法廷に立った新里宏二弁護士はそう強く訴えた。

「不良な子孫の出生を防止する」と法文でうたう旧優生保護法は、戦後まもない1948年に制定された。96年、母体保護法への改正で優生的な条項が削除されるまでの48年の間に、本人の同意によらず行なわれた不妊手術は、1万6475件に及ぶ。そのうち遺伝性疾患ですらない例も1909件含まれている。

今回、原告として国を訴えた宮城県在住の60代女性は、1歳のときに受けた口蓋裂の手術の際の全身麻酔の影響で、後天的な知的障害を負った。本人の療育手帳にも「遺伝性ではない」と記されていたが、昨年6月の県への情報開示請求で得た当時の優生手術台帳から、「遺伝性精神薄弱」を理由に不妊手術を受けさせられていたことがわかった。当時わずか15歳だった。当時の県優生保護審査会の審査の杜撰さも問われる。

【障がい者差別をも問う】

厚労省は20年間以上にわたりこの問題を「当時は合法であり、謝罪も補償もしない」という見解で通してきた。原告の義姉の佐藤路子さん(仮名)はこう訴える。

「過去2回行なわれた厚労省との交渉でも訴えてきましたが『当時は合法』『厳正なる手続きの上に行なわれた』という答弁でした。どうしてこれが『合法』と言えるのか。そもそも優生保護法という法律があったこと自体が理解できないし、そんな法律があったことから、今もある『障害者は生きてはいけない』というような中傷や差別にもつながっています。その反省がなければ障がい者は安心して生きていくこともできない」

子どもを産む、産まないという選択肢を奪われることは、幸福追求権としての自己決定権(憲法13条)の侵害にあたる。今回の提訴はその違憲性を問うものだ。同時に、旧優生保護法の優生条項が「障がい者差別に当たる」とされ削除された後、国内外から謝罪や補償を求める意見が多数出されていたにもかかわらず、謝罪もせず補償制度も作ってこなかった国に対して、国家賠償法に基づく損害賠償を求める意義もある。

【次々と声を上げて】

裁判の傍聴席には、同じく16歳で同意のない優生手術を受けさせられた宮城県の飯塚淳子さん(仮名・70代)の姿もあった。97年から20年間、国へ謝罪と補償を求め続け、県にも情報公開請求を何度も行なってきたが、手術の記録は県に保管されておらず、裁判に踏み出すことはできなかった。だが、15年に日弁連に人権救済の申し立てをしたことが大きく報道され、次の被害者たちが声を上げるきっかけとなった。今回の提訴もその告発の延長上にある。裁判後の記者会見では、原告女性に続き国を提訴する意向を固めた東京都の70代男性も会見。60年前に優生手術を受けたことを、亡くなった妻にも隠し続けた苦しみを訴えた。[※訂正]

「今年の1月、優生保護法の報道を見て、自分も被害者ではないかと思い、仙台のホットラインに連絡しました。辛い思いで今まで生きてきました。人生を返してほしい。優生保護法の傷を受けた人が大勢いるのではないか。勇気を出してみなさんの前に出てほしいと思います。私も閉ざされた胸の中をこうやってみなさんの前にひらくことができました」(男性)

「個人が声を上げることがとても重要。変えていくのは被害者ひとりひとりです。この国は人権を守ることができる国なのか。その姿勢が問われている」(新里氏)

国は原告側の請求の棄却を求め、争う姿勢を示しているが、全国で被害者の相談を受けるホットラインもたちあがり、今後も声を上げる被害者は増えていくだろう。何よりも連携が必要だ。

次回弁論は6月13日の予定。

(岩崎眞美子・ライター、2018年4月6日号)

※本文中の「優生手術を受けたことを亡くなった妻にも60年間隠し続けた苦しみを訴えた」を「60年前に優生手術を受けたことを、亡くなった妻にも隠し続けた苦しみを訴えた」に直しました。

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