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衆院選公約の教育無償化方針で迷走の自民 振り付けは増税悲願の財務省

2020年度までに幼稚園・保育所を無償化する──。自民党が10月の衆院選で掲げた目玉公約は、大揺れの末、一部約束を違えた形で政府方針に「昇格」しそうだ。2兆円という選挙を睨んだ規模ありきの打ち上げ花火だったとあって、選挙後に内容を詰めていなかったツケが噴き出した。

「支援が真に必要な世帯に重点的に向けられる必要があるとの意見にも留意すべきだ」。22日、自民党の「人生100年時代戦略本部」がまとめた幼児教育・保育の無償化に関する提言には、幼稚園や保育所の費用補助に制限を設けるよう求める一文が入った。公定価格より高い施設などを想定しており、「3~5歳児のすべての子で無償化する」としていた公約の完全実施は見送られた。

衆院選直前、安倍晋三首相は与党に諮らず、幼児教育・保育の無償化を柱とする2兆円規模の政策パッケージを打ち出した。19年10月に予定する、消費税率10%への引き上げで得る財源の使途を見直し、約1・7兆円をつぎ込むと表明した。そして衆院選に大勝し、残り3000億円は企業の拠出とすることで経済界と話をつけた。

それでも、選挙は野党の敵失に救われたのが実情だ。首相への強い支持ではない。首相と与党との力関係は変わり、自民党側の巻き返しが始まった。2兆円の政策パッケージが個別の政策に要するカネを積み上げたものではなく、規模先行で内容はあやふやだったことが、その後の迷走を招いた。

【社会保障の関心薄い首相】

まずやり玉に挙がったのは、認可外施設の扱いだった。官邸から内容を丸投げされた財務、厚生労働両省は認可外施設を補助の対象外とすべく動き出していた。

「認可外施設を政府が勧めているように誤解される」との懸念からだ。しかし、子育て世代を中心に「認可施設に入れず、やむなく認可外を選んでいるのに補助がないのはおかしい」との批判がわき起こるや、自民党は「認可、認可外を区別しないことが大切」(木原誠二政調副会長)と、すぐさま認可外施設を補助の対象に加えた。

「能力のある人には、負担を求めてきたのが自民党」「党内の反対意見を無視した公約化だ」

8日の自民党戦略本部の会合では、一律無償化への反発が相次いだ。低所得者に無償化をしている自治体は多く、国が一律無償にすれば高所得層のみ優遇することになる、との理由からだ。これを受け、同党はいったん、補助に所得制限をかける考えを示していた。

ところが、「それでは一律無償化の公約とかけ離れる」との懸念から、今度は揺り戻しが起きた。揺れに揺れた揚げ句、落着したのが、公定価格の認可施設は無償にし、認可外も補助の対象としつつ上限を設ける折衷案だった。議論の最中、小泉進次郎・筆頭副幹事長は「どうやったら公約通りと理解していただく形ができるのか、だ」と苦心のほどを口にした。

このほかにも、「保育所の待機児童解消が先決」との批判を受け、自民党の提言には、首相が触れていなかった「保育士の賃金アップ」を実現させる案も盛り込まれた。厚生族幹部は「結果的にまともな方向に落ち着いた」と苦笑いした後、首相に批判の矢を向けた。「中身のない『2兆円』ありきが問題だった。首相の頭には、認可、認可外のことなどまるでなかっただろう」。

そもそも首相が無償化を言い出した背景には、消費増税への嫌悪がある。先進国最悪の財政赤字を抱える中、経済成長重視の首相が見いだしたのが、増税は受け入れながらも、国の借金返済に充てる分の一部を無償化に振り替える案だった。

振り付け役は消費増税を悲願とする財務省。首相の意図する無償化とは、それで浮くカネを子育て世代に消費に回してもらう財政政策というのが本質だ。

「マクロ経済対策だから、子育て支援の内容にこだわりなどないのだろう。首相の社会保障への関心の薄さを改めて思い知ったよ」

厚労省幹部は、寂しそうにつぶやいた。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、12月1日号)