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90年代には右傾化の芽が揃っていた(雨宮処凛)

2017年10月10日6:20PM

8月に出版された『1990年代論』(河出ブックス)という本に原稿を書かせて頂いた。

編著は78年生まれの大澤聡氏。70〜80年代生まれの論者たちが、90年代の政治や社会、労働、家族、心理、アニメやゲーム、マンガなどを論じる一冊である。

本書で私が担当したのは90年代の「運動」。もちろんスポーツの方ではなく、皆さんが日々いそしんでいる方のだ。

ちなみに90年、私は15歳の高校生で、リストカットとヴィジュアル系バンドの追っかけが人生のすべてだった。

そうして99年、24歳だった私はフリーターで、右翼団体に入っていた。

この10年間に、一体何があったのか。私が本書で取り上げた運動は、95年に最高潮の盛り上がりを見せた「薬害エイズ運動」だ。私より1歳下の川田龍平氏が当事者としてメディアに登場し、漫画家の小林よしのり氏が「HIV訴訟を支える会」の代表となり、そうして95年、患者や支援学生などが厚生省(当時)を人間の鎖で囲む「あやまってよ95」を実施、3000人が参加した。

が、私はこの運動に参加したこともなければ関わっている人に会ったこともない。すべては小林よしのり氏の漫画で知ったことだ。なぜなら当時の私は大学を2浪した果てに進学を諦めた貧乏フリーター。そんな人間に「運動する学生との接点」など皆無。同世代の学生たちが著名人も参加する華やかな運動に身を投じ、社会正義まで体現しているという事実は、羨ましすぎて私には堪え難いことだった。

もちろん、本当は参加したかった。だけど、フリーターで頭も悪い自分には参加資格などないと思っていた。高学歴で、弁が立ち、注目を浴びる学生への反発。この感情は、SEALDsに対して反感を持った若者に通じるものだったと思う。自分がそうなりたくてたまらないからこそ、苦しくて仕方なかった。

そうして96年、そんな私のもやもやを鮮やかに肯定してくれたのが小林よしのり氏の『脱正義論』だ。運動で自己実現みたいな学生を「純粋まっすぐ君」と評し、薬害エイズ運動に関わる「左翼」と呼ばれる人たちを徹底的にブッ叩いたこの本は、何もできずに燻るだけの私の溜飲を下げてくれた。その後、小林よしのり氏がどんどん右傾化していくのに合わせるようにして、私も右傾化。97年、22歳で右翼団体に入り、99年に脱退。

詳しくは本書を読んで頂きたいが、読み進めていくと、90年代には今の右傾化に至る芽はすべて揃っていたことがよくわかる。編者の大澤氏は、「私たちをとりまく条件の大部分はむしろ“90年代的なもの”によって構成されている」と指摘する。

あの時代から、今を読み解くこと。そのためのヒントが詰まっている一冊だ。

(あまみや かりん・『週刊金曜日』編集委員。9月8日号)

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