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啄木が似合わない橋下徹と小池百合子(佐高信)

2017年10月3日6:45PM

山本有三の名作『女の一生』に、主人公の允子が旧制高校に入った息子がハイネの本を読んでいるのを知って微笑む場面がある。自分も若いころ、ハイネの恋愛詩を胸をときめかせて読んだのを思い出したからである。

しかし、息子が読んでいたのは、革命詩人となった後期のハイネだった。

日本が軍国化していく中で、「危険思想」をもつ息子は逮捕される。允子は安心していたのにである。

「前期のハイネ」と「後期のハイネ」のコントラストは忘れがたい印象を残すが、石川啄木の場合も「前期の啄木」と「後期の啄木」は違うと言えるだろう。数え年でもわずか27年の生涯の啄木を「前期」と「後期」に分けるのは無理があると思うかもしれないが、後期の社会化した啄木と前期の啄木は明らかに違う。

その啄木に「性急な思想」と題した小論がある(岩波文庫『時代閉塞の現状 食うべき詩 他十篇』所収)。

「最近数年間の文壇及び思想界の動乱は、それにたずさわった多くの人々の心を、著るしく性急にした。意地の悪い言い方をすれば、今日新聞や雑誌の上でよく見受ける『近代的』という言葉の意味は、『性急なる』という事に過ぎないとも言える」

こう書き出されたその論は「近代人の資格は神経の鋭敏という事であると速了して」といった皮肉を入れながら、「性急な心! その性急な心は、或は特に日本人に於て著るしい性癖の一つではあるまいか、と私は考える事もある。古い事を言えば、あの武士道というものも、古来の迷信家の苦行と共に世界中で最も性急な道徳であるとも言えば言える」と続く。

私も十二分にセッカチだが、一般的に性急はタカ派と結びつき、他人が自分の思い通りに動かないのが気に入らない。のんびりとした人間にイライラし、統制もしくは矯正して秩序の中にはめ込みたがるのである。

「大阪維新の会」を始めた橋下徹がその典型だろう。自民党よりタカ派の性急な思想を彼は持っている。同じく“東の維新”の小池百合子も政党を渡り歩いたことでわかるように、そうした傾向を持っているのではないか。

小池は橋下よりタヌキだから、それを煙幕に包んでいる。彼らには、たとえば啄木の次のような歌は似合わない。

◯いらだてる心よ汝はかなしかり
いざいざ
すこしあくびなどせむ

◯路傍に犬ながながとあくびしぬ
われも真似しぬ
うらやましさに

啄木の「性急な思想」から、もう少し引こう。

「性急な心は、目的を失った心である。この山の傾きから彼の山の頂きに行かんとして、当然経ねばならぬところの路を踏まずに、一足飛びに、足を地から離した心である。危い事この上もない。目的を失った心は、その人の生活の意義を破産せしめるものである。人生の問題を考察するという人にして、もしも自分自身の生活の内容を成しているところの実際上の諸問題を軽蔑し、自己その物を軽蔑するものでなければならぬ。自己を軽蔑する人、地から足を離している人が、人生について考えるというそれ自体が既に矛盾であり、滑稽であり、かつ悲惨である」

学生時代に入っていた寮の日誌に、ある友が女性の似顔絵を描き、啄木の歌を添え書きしていた。

◯世の中の明るさのみを吸ふごとき
黒き瞳の
今も目にあり

これはやはり「前期の啄木」の歌なのだろう。

(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、9月8日号、一部敬称略)
※原文では「あくび」は漢字表記

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