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配車サービス「Uber」(ウーバー)ドライバーの劣悪な労働環境

9月30日、東京都内で開かれた集会で、ウーバーの劣悪さを訴えるディオジェネス・カラスコさん。(撮影/渡辺妙子)

世界84カ国632都市で利用されているライドシェアサービス「ウーバー」。しかしその裏にはドライバーの過酷な労働の実態があると、米国の元ウーバードライバー、ディオジェネス・カラスコさんと、支援団体ニューヨーク・タクシーワーカーズアライアンス代表のバイラビ・デサイさんなどが、都内で開かれた集会で訴えた。

ニューヨークでタクシードライバーをしていたカラスコさんは、「自由な働き方、高収入」を謳う広告にひかれ、2014年にウーバードライバーに転身した。最初の1年は週に1500~2000ドル稼げたが、2年目からウーバー側の運賃値下げや手数料値上げ、ドライバーの増加によって収入が激減。昨年までの2年間で最終的に運賃は35%引き下げられた。またウーバーは売上税をドライバーに払う金から違法に控除していた。カラスコさんはウーバーの労働法違反について、仲間らとともに訴訟を起こしている。「マスコミはウーバーはいい会社だと言うが、私はそうは思わない。もしドライバーになりたいという人がいたら、よく考えて」と言う。

デサイさんは、「ウーバーはドライバーは自由な働き方ができる独立契約者だというが、仕事中のケガや事故、休業による賃金保障など、労働者としての権利と保護が適用されない。もちろん年金や保険など、一般の労働者が受けられる社会保障もない」と、ドライバーの労働者性について無視するウーバーを問題視する。

日本では一部地域で出前サービス「ウーバーイーツ」が始まっているが、そのライダーである鈴木堅登さんは、「仕事帰りに事故ってしまったが、ウーバーは『鈴木さんは個人事業主だから』で終わり。仲間の中には、仕事中の事故で脳内出血を起こし30万円くらいの医療費がかかった人もいるが、労災もサポートも何も受けられなかった」と、「個人事業主」の名のもと、何の補償もない実態を訴えた。

(渡辺妙子・編集部、10月6日号)

「組織化された貪欲」に負けるな(浜矩子)

突然、総選挙だ。とんでもない話だ。ご都合主義も甚だしい。あまりにも姑息すぎる。こういうことを繰り返していると、必ず、天罰が下る。それを確信しつつ、選挙というものに関する先人たちの知恵に学ぶことを試みた。

まずは古典からいこう。エウリピデスいわく、「蜜の言葉と悪なる魂の持ち主が大衆を籠絡する時、国に災禍が降りかかる」。エウリピデスは、ご存じ、ギリシャ悲劇の大家だ。人々の野心や下心や疑心暗鬼、そして自己保存本能が、いかに破壊的な力をもって悲劇を招くか。それを知り尽くし、語り尽くした人だった。

同じ古代ギリシャの文豪でも、アリストファーネスは喜劇の達人だった。欺瞞政治を揶揄した風刺劇、『騎士』の中に次のくだりがある。「人気を博したいなら、人々が喜びそうな珍味を用意してやればいいのさ。」

教育の無償化だの、全世代型社会保障だの。これらが、今回のご都合主義選挙を前にして、日本の有権者のために用意された蜜味の珍味だ。こんなものに籠絡されてはならない。

時代をグッと早送りしよう。1970年生まれのマット・タイビが次のように言っている。「自由市場と自由選挙を基盤とする社会においては、必ず、組織化された貪欲が組織されざる民主主義に勝利する。」

マット・タイビはジャーナリストであり、文筆家だ。アメリカ社会の矛盾と混迷を衝いて舌鋒鋭い。組織化された貪欲は、確かに怖い。何が何でも、その下心を実現すべく、組織的に動く。組織化された貪欲・イン・アクション。この間の日本の政治と政策が、われわれにそれをいやというほど見せつけてくれ続けてきた。

それに対して、民主主義はそもそも妙に組織化されないところがいい。組織なく、枠組みなく、強制なし。でも、民主主義は生きている。でも、民主主義は立ち上がる。それが民主主義の本質的美学だろう。

その意味で、マット・タイビが組織的貪欲の必勝を主張するのは、少々、悲観がすぎるかもしれない。貪欲に美学はない。貪欲に自然発生的求心力はない。だからこそ、必死で組織化しなければならない。だからこそ、そこに強制と規律が必要になる。枠組みが崩れれば、貪欲もまた脆くも崩れる。

また少し、時代を巻き戻そう。第16代米国大統領、エイブラハム・リンカーンいわく、「バロット(投票箱:ballot)はブレット(弾丸:bullet)より強し」。素晴らしい言葉だ。その通りである。だが、大義なく唐突にバロットを国民につきつけてくる者たちが、ブレット大好き集団だったらどうするか。ブレットを良しとする方向に人々を引っ張って行く。それが可能になるために、突如としてバロットを持ち出して来ている場合には、どうすればいいのか。

これに対して、リンカーンは答えを与えてくれていない。当然のことだ。そもそも、ブレット狙いでバロットに頼ろうとするような者たちが出現するなどということを、まともな精神の持ち主は考えもしない。貪欲の組織化、ここに極まれり。悪に根ざす蜜の甘言、これを越えることなし。危険な珍味を断固拒絶すべしだ。

(はま のりこ・エコノミスト。9月29日号)

過去に学ぼうとしない安倍首相(黒島美奈子)

遅まきながら、話題のドキュメンタリー映画『米軍が最も恐れた男、その名は、カメジロー』を観た。上映は沖縄で唯一インディーズ作品を提供する桜坂劇場で、しかも連日長蛇の列と聞き、「必ず観よう」と決めていた。それなのについ先延ばしにしていたら、公開37日目に「沖縄で観客1万人突破」と報道されたので、慌てて観に行った。

カメジローとは、言わずと知れた沖縄出身の政治家・瀬長亀次郎。1950年代、米軍統治下の沖縄で「沖縄人民党」を結成した。ポツダム宣言に心酔し、日本国憲法を愛して、その対極にある米軍の圧政に真っ向から異を唱えた。

政治活動の原点は、労働運動だ。米軍施設を造るため県内外から集められた労働者が食事も満足に与えられず押し込められていると知り、駆け付けた。その労働者たちを救うため、琉球政府下で初めて労働法の制定を提案し実現した。

映画では、絶対的権力を握る米軍が中傷ビラや投獄などあの手この手を使ってカメジローを政治から遠ざけようと画策したエピソードと、そうすればするほどカメジローにのめり込んでいく県民の姿が映し出されている。佐古忠彦監督は舞台あいさつで、「今、求められる政治家像だ」と評していた。

戦後初の「沈黙解散」が行なわれる現代の政治家像は、どうだろう。報道から知るのは、政権の長期化を狙い大義なき解散に走る安倍晋三首相とそれに追従する自民・公明両党、同様に大義なき離党・結党を繰り返して自滅の道を走る一部野党や新党の姿だ。

9月20日の国連演説で、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)に核を放棄させるのに必要なのは「対話ではない。圧力なのです」と言い、あおるだけあおった安倍首相は、その渦中に国会を空にするという暴挙に出た。

対する民進党の前原誠司代表は、支持率低迷の最中の選挙戦突入の危機にもかかわらず、安倍政権を揺さぶる唯一の可能性=共産党との連携=さえ二の足を踏む。どちらも保身の末の行動にしか見えない。

小池新党と言われる「第三の勢力」も、改憲推進・安保法容認など安倍政権とほぼ変わらない内実が判明すれば、解散の意義はますます見えない。今選挙も盛り上がらないのは必至で、投票率の低迷だけがニュースに違いない。

ただ懸念するのは、どんなに大義が見出せずとも、今回の結果が日本の分岐点になるだろうという点だ。「教育の無償化」や「森友・加計問題」など、各党が主張する選挙の争点がメディアを騒がせているが、今選挙が最も反映される真の争点は緊迫する北朝鮮外交であり、改憲だ。

「窮鼠、猫を噛む」という。安倍政権の下、このまま圧力一辺倒でいけば、北朝鮮は近いうちにデッドラインを超えるだろう。日米開戦の理由をひもとく『日本はなぜ開戦に踏み切ったか』(森山優著、新潮選書)には、「自衛のため」対米報復するという陸軍の案に、半ば自暴自棄になって突き進む東条内閣の姿が描かれる。その姿は今の北朝鮮と重なる。

国会で「ポツダム宣言はつまびらかに読んでいない」と明言した安倍首相には、過去に学ぼうとする姿勢は見えない。今選挙ばかりは「ほかにいい人がいない」という理由で、投票しない方がいい。

(くろしま みなこ・『沖縄タイムス』記者。9月29日号)

「少年法適用年齢引き下げ問題」でシンポ 「厳罰ではなく再教育を」

適用年齢引き下げの影響について発言するシンポジストら。9月26日、東京・千代田区で。(写真/小宮純一)

法制審議会(法制審)で検討されている少年法の適用年齢引き下げ問題を考えるシンポジウムが9月26日、東京・千代田区であった。東京弁護士会が主催。20歳未満とされている現行の適用年齢を、18歳未満にする方向で進む法制審部会の議論に危機感を抱き開催したもので、約150人が詰めかけ熱心に耳を傾けた。

最初に基調報告した金矢拓弁護士は、年齢引き下げで生じる恐れのある少年司法の質的な変化として(1)家庭裁判所調査官による綿密な少年事件の原因分析や働きかけがなくなる(2)「成長発達の支援」「健全な育成」という現行少年法の目的・理念の消失――を指摘した。

その後のシンポジウムには非行少年の立ち直りにかかわっている4人が登壇。13歳から非行に走り、24歳までに逮捕歴15回、少年院に二度送られた経験があるNPO法人「再非行防止サポートセンター愛知」理事長の高坂朝人さんは「18歳を“成人”とすれば実名報道され、生き直しがきわめて困難になる」と引き下げ反対の意見を述べた。

その上で逮捕された少年4人を含む、サポート対象となった保護者・少年の実態を紹介。「非行少年に必要なのは厳罰ではなく再教育。大人から信じてもらえる自分だ、という実感があってこそ立ち直れる。その機会を奪わないでほしい」と訴えた。

(小宮純一・ジャーナリスト、10月6日号)

日テレ、安倍政権に忖度して番組改変か(横田一)

訪米してトモダチ作戦で被曝した兵士の訴えに耳を傾ける小泉純一郎元首相(中央)。2016年5月18日。(撮影/横田一)

10月9日放送のNNNドキュメント(日本テレビ系列)で、安倍政権に忖度(そんたく)したと思われる番組改変事件が起きた。「『放射能とトモダチ作戦』 米空母ロナルドレーガンで何が?」と題し、東日本大震災で被災者を救援した米軍「トモダチ作戦」参加兵士が、「福島第一原発事故による放射能被曝で健康被害が出た」として東京電力などを提訴していることを紹介した番組だったが、昨年5月に米国で被曝兵士にヒアリング後、支援基金を設立(約3億円寄付)した小泉純一郎元首相が登場する場面がすべてカットされたというのだ。

この訴訟を当初から支援、小泉元首相に訪米を勧めたジャーナリストのエイミー・ツジモト氏(日系4世で被爆2世)が訴える。

「東電を訴えた米兵や弁護士を紹介するなど番組制作に全面的に協力してきましたが、放送10日前の9月29日になって日本テレビの担当プロデューサーから『今回放送の番組の中の小泉氏の登場シーンは全てカット』とメールで伝えられました。“改変前”の放送予定番組には、記者会見で涙を流した小泉元首相の訪米の様子や、兵士が小泉氏に感謝の気持ちを述べる場面もあったのに、“改変後”はすべて削除されてしまったのです」

同番組の担当者は削除の経過をメールでこう説明している。

「本日二度目の(中略)プレビュー(放送前視聴)が行われました。そこで、日本テレビ報道局の総意として以下の業務命令が出ました。『今回放送の番組の中の小泉氏の登場シーンは全てカット』というものです」
「放送法では『公示期間中』に限定されているのですが、小池=小泉は影響が大きすぎて期間直前でもだめだという局の判断との事。結局、日テレ報道の魂は『ABに忖度』という事なのです」

これに続き、「選挙が目前である事」「希望の党が脱原発を公約、選挙の争点にした事」「希望の党設立の会見後に小池・小泉が会って協力を臭わせた事」「小泉氏が(小池氏を)応援する事にでもなると、放送直前の直しが間に合わなくなり、放送に穴が空くから」などの削除の理由が列挙され、「守りきれませんでした。申し訳ありません」との言葉で結ばれている。

選挙報道原則を拡大解釈

「ABに忖度」とはもちろん安倍政権のことだろう。「小池=小泉は影響が大きすぎて」などとあるように、安倍政権に過剰なまでに忖度した“自主的検閲”といえる。選挙中の公平報道原則を、期間も内容も自分勝手に拡大解釈し、被曝兵士救済に動こうとしなかった職務怠慢の安倍政権のマイナス材料を削除したとしか見えない。その結果、有権者に投票の判断材料となる情報を与えずに国民の知る権利を奪ったのだ。

小泉元首相は訪米後、外務省に被曝兵士の実情を報告したが、日本政府(安倍政権)は動かなかった。そこで原発ゼロ社会実現を目指す仲間とともに小泉元首相は昨年7月、支援基金設立を発表。講演会参加費をすべて基金に回す全国講演行脚をボランティアで続けながら、原発ゼロ実現と被曝兵士救済をセットで訴えた。その結果、当初の目標の1億円を超える3億円が集まることにもなったのだ。

「被曝兵士が今回の番組を見たら『なぜ支援基金を作った小泉元首相が出てこないのか』と全員が首を傾げるでしょう」とツジモト氏。

原発推進で被曝兵士にも無関心な安倍首相と、脱原発で被曝兵士救済に奔走した小泉元首相の違いを知った上で、原発問題が大きな争点となった総選挙の投票行動の判断材料にすることは何ら問題ないはずだ。事実をありのままに有権者に伝えることになるからだ。

しかも小泉元首相は原発ゼロの政策の正しさは訴えても、選挙で特定の政党や候補者の応援をしない考えを繰り返し表明していた。日テレ上層部はありえない選挙応援の事態を妄想、被曝兵士救済に動かなかった安倍政権の職務怠慢を隠蔽したともいえる。これこそ、自民党に肩入れをする偏向報道に該当、多角的な情報提供を定めた放送法違反ではないか。日本テレビの対応が注目される。

(よこた はじめ・ジャーナリスト、10月20日号)

詩織さん性暴力事件「28年間生きてきた中で最も醜い人権侵害」

「会見後は、事件後より苦しい思いになったことは確か。誹謗中傷の声で身の危険を感じることもあった」と吐露する詩織さん。(撮影/宮本有紀)

フリージャーナリストの詩織さんが元TBS記者の山口敬之氏を「準強姦」容疑で訴え逮捕令状が出たにもかかわらず執行されず不起訴になり、その不服申し立てに対しても東京第6検察審査会が9月21日、「不起訴相当」の議決を出した。110年ぶりに大幅改正された刑法性犯罪規定が7月に施行されたが、法律が変わっても、警察や検察、裁判官の意識や対応が変わらなければ意味がない。

被害者の目線で捜査や裁判の問題点を指摘し、システムの改善を求める「性暴力被害当事者を孤立させない」集会が29日、参議院議員会館で行なわれ、議員も含め204人が参加した。

登壇した詩織さんは「現在の司法では私の受けた行為は〈準強姦に値するものではなく犯罪行為ではなかった〉という結果。しかし、私の受けた行為は、28年間生きてきた中で最も醜い人権侵害でした。自分の内側が殺されてしまったようで抜け殻となり生きていかなければならない毎日でした。どのような判断がされようと、私の受けた行為は変わるものではありません」と毅然と発言。また、警察では最初「よくある話で(捜査は)難しい」と被害届を受理されなかったことから「誰にもとりあってもらえなかったら、被害者はどこに助けを求めたらいいのでしょうか」「社会の受け入れ方や捜査の仕方が違うだけで被害者はどれだけ救われることでしょうか」と司法や捜査システムの改善を訴えた。発言後は会場から大きな拍手が起こり、しばらくなりやまなかった。

詩織さん代理人の西廣陽子弁護士は、「不起訴相当」について「犯罪行為がなかった、という意味ではなく、犯罪行為が立証できる証拠が集まらなかったという意味にすぎない。議決理由は明かされていないので開示要求を検討する」と解説。28日、山口氏に対し損害賠償請求訴訟を提起したことを報告した。今後は民事訴訟の場で事件の究明が行なわれる。

(宮本有紀・編集部、10月6日号)

ビキニ環礁・第五福竜丸事件から63年 築地市場に石碑「マグロ塚」を

米軍が1954年3月に南太平洋のビキニ環礁で行なった水爆実験で被曝し、急性放射線症でその年に亡くなった久保山愛吉さんの命日(9月23日)に、「築地にマグロ塚を作る会」が、記録映画の上映と講談の集いを開催した。

同会の代表は久保山さんと同じ、第五福竜丸の乗組員だった大石又七さん。「マグロ塚」とは、当時、ガイガーカウンターで100cpm(1分間に1カウント)以上の放射線が感知され、国に廃棄処分を命じられたマグロを供養するための石碑だ。水揚げされた汚染マグロは460トン。築地市場だけで2トンのマグロが穴を掘って埋められた。

ビキニ事件をきっかけに原水爆禁止運動は盛り上がったが、大石さん自身は、他の乗組員と同様、差別を避けて事件については口を閉ざし、故郷を離れて東京でクリーニング店を営んでいた。しかし、小学生たちに体験を語ったのがきっかけで、「当事者が話さないと忘れていく」と講演を重ね、「私自身が変わっていった」(大石さん)と言う。そして、東京都が地下鉄工事に伴い発掘調査をすることとなり、そこに石碑を建てることを思いついて、子どもたちから10円募金で寄付を集めた。

集会では「ほんのわずかでも出資すれば、私が話しただけよりも平和問題に関わったという意識を持ってもらえる。私は私で助かると考えたが、子どもたちは私が思っていたより真剣に考えてくれた。今考えると大事なことだった」と語った。

大石さん自身が「マグロ塚」の4文字を書くために通信教育で3年をかけて書道2段を取った。

しかし、東京都は築地市場での石碑建立に難色を示し、現在、石碑は第五福竜丸展示館(江東区)の脇に立つ。同会は「核兵器の怖さと平和の尊さを訴え続けてくれる」として、「マグロ塚」の築地への移設を都知事と都議会に求める署名を集め続けている。

(まさのあつこ・ジャーナリスト、10月6日号)

「擅権の罪」に問われる“ソバいや解散”(佐高信)

政権与党の幹部は口をそろえて「衆議院の解散は総理大臣の専権事項」と言うが、憲法のどこにもそんなことは書かれていない。

大体、彼らは「専権」のセンを「擅権(せんけん)」のセンと勘違いしているようだ。専は「もっぱら」だが、擅は「ほしいまま」で、微妙な違いがある。

かつての大日本帝国の陸軍刑法に擅権の罪というのがあった。

第35条が「司令官外国ニ対シ故ナク戦闘ヲ開始シタルトキハ死刑ニ処ス」であり、第37条が「司令官権外ノ事ニ於テ已ムコトヲ得サル理由ナクシテ擅ニ軍隊ヲ推進シタルトキハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ禁錮ニ処ス」である。そして第38条には「命令ヲ待タス故ナク戦闘ヲ為シタル者ハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ禁錮ニ処ス」ともある。

しかし、陸軍中央の制止を振り切って出先の関東軍が中国への戦争を仕掛け、これは有名無実のものとされた。

たとえば柳条湖事件でも、板垣征四郎は独断で兵を動かし、司令官の本庄繁に報告したのは、独立守備隊が北大営を、第29連隊が奉天城内を、ともに闇討ち同然に攻撃してからである。

これは明らかに前記の刑法に引っかかる擅権の罪だった。板垣と気息を合わせていた石原莞爾も同じ罪に問われることは言うまでもない。

歴史にイフは禁物だが、私は『石原莞爾 その虚飾』(講談社文庫)を書いて、この時、板垣や石原が「擅権の罪」で「死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ禁錮」に処されていたら、その後の日本の歩みは大分違っていただろうと思わざるをえなかった。

“緑のタヌキ”ならぬ“緑のコウモリ”の小池

まさに安倍晋三の今度の身勝手解散は擅権の罪に問われるものである。

森友学園と加計学園の疑惑を、そばに引っかけてモリカケ疑惑と呼ぶらしいが、結局、安倍はこれを追及されるのが死ぬほどイヤだった。モリもカケも、ともかく、そばは食べたくないから、解散に逃げ込んだ。だから、この解散は名づければ“そばイヤ解散”である。野党はこの点を徹底して追及していかなければならない。

安倍の“そば隠し解散”の共犯者が例によって公明党だが、この公明党ならぬコウモリ党が自民党に付くのか、小池(百合子)新党と手を結ぶのかも注目される。どちらとも協力するというのだろうが、力点は自民に置くのか、新党に重心を傾けるのかということである。

たとえば、東京12区の公明党の太田昭宏のところには、新党は候補者を立てないという。都知事選で公明党は小池を応援したのだから、ある意味では当然だろう。しかし、ここは自民と公明の選挙協力の象徴のようなところであり、公明は自民と新党の間で股裂きのような状態になるのではないか。

太田は京都大学時代、相撲部に入っていて、得意技はぶちかましらしいが、それで解決する問題ではない。

ちなみに、平凡社の『世界大百科事典』でコウモリの項を引くと、西洋では「たそがれや月夜など光と闇が拮抗する時間にだけ姿を現すといわれ、しばしば不浄で気味悪い動物とみなされた」という。また、日本では「鳥のように飛び獣の姿でもあるところから、古くからどちらにも属さなかったり形勢によってあちこちに立場を変える者をこの名で呼ぶ」とある。

まさに公明党にピッタリだと思うが、私には、そのコウモリ党と同一歩調をとる小池百合子自身もコウモリに見えてくる。即席めんの商品名をもじって、小池を“緑のタヌキ”と呼ぶ人がいるらしい。しかし、“緑のコウモリ”の方がふさわしいのではないか。

(さたか まこと・『週刊金曜日』編集委員、9月29日号)

北朝鮮問題を政治利用する安倍首相 石坂浩一・立教大学准教授に聞く

トランプ米国大統領が9月の国連総会で述べた北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を壊滅させることもいとわないという発言は、衝撃的なものだった。これまで、ツイッターでは放言があったが、今回は公式に語られた。それも、平和を守るはずの国連の場で。

これに対し北朝鮮の金正恩国務委員長は9月21日、声明を通じてその意思を明らかにした。声明は、トランプ大統領の演説は「宣戦布告」であるとして、それに見合う「史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮するだろう」と主張した。金正恩国務委員長が個人名で声明を出すのは初めてで、いわば米朝の最高指導者が公式的に激烈な言葉の戦争を展開しているのだから、緊張と対立はこれ以上ないところまで来ているのである。

トランプ大統領は8月初めに、もし戦争が起こるなら「向こうでやる」と述べたことがあった。ともあれ、私たち日本に暮らす者たちは「向こう」にいるのだから、トランプ大統領に対して、冷静になって戦争は絶対に避けるよう働きかけなければいけない。ところが、安倍晋三首相は国連総会で、北朝鮮問題について「必要なのは対話ではない。圧力だ」などと述べた。この間、安倍政権が緊張緩和のために行なったことはひとつもない。

安倍首相の発言は、トランプ大統領に追従する発言だ。むしろ大統領の放言で一貫性のある朝鮮半島政策を示せない米国を利用して、北朝鮮の脅威を煽り立てているように見える。北朝鮮の脅威に対抗せよといいながら、みずからの政権のスキャンダルから国民の目をそらし、改憲や軍事力強化といった政治的狙いを実現しようとする術策なのではないだろうか。安倍氏は拉致問題を利用して首相になった人だと指摘されたことがあったが、いまは北朝鮮を利用してさらなる政治的野望をかなえようとしているのではないか。

【対話の糸口をつかみ平和定着への努力を】

この間、北朝鮮のミサイル発射を奇貨として安倍政権は、実効の疑わしいJアラートを作動させ、小学校の子どもたちにまで避難訓練を実施させている。国民に危機感を植え付け、「北朝鮮は危険だ」「敵だ」という観念を植え付けようと躍起になっている。

だが、いま必要なのはこうしたことではない。韓国の文在寅大統領は、8月15日の独立記念日における演説で、韓国政府は戦争だけは避けると強調した。日本政府も対話の糸口をつかみ、まずは現在の緊張を緩和させ、東北アジアの平和定着を導き出すためにこそ努力し、協力すべきではないか。韓国や米国と違い、日本は少なくとも朝鮮戦争の法的当事者ではないし、日朝平壌宣言という合意も破棄されてはいないのである。

朝鮮戦争の停戦協定が1953年に結ばれてから64年がたつ。いまだに平和協定には至っていない。日本ではマスコミを中心に、北朝鮮が戦争をしようとしているかのような構図を描き出している。しかし、これこそ印象操作というものであろう。

北朝鮮は戦争を継続する国力を備えていない。そのことは、最高指導者が一番よくわかっているはずだ。核とミサイルの開発をもって米国の武力攻撃を避けるとともに、米国を外交交渉の場に引き出そうとしているだけである。ただ、武力攻撃を受ければ、必死に反撃するので、東北アジアはトランプ大統領の言うように壊滅する。

北朝鮮はトランプ大統領の発言とは反対に、これまで米国の歴代政権と一定の合意をしては、次の政権にひっくり返されるという苦い裏切りを味わってきた。北朝鮮はほかならぬ米国との国交、不可逆的で安定した関係を望んでいる。しかし、交渉を求める北朝鮮をこれまで外交的に疎外してきたのも、米国にほかならなかった。

2018年は、韓国・北朝鮮が建国70周年を迎える。北朝鮮は米国との平和協定を実現しようとするだろうが、道のりは険しい。安倍政権は日朝の対話を再開し、韓国と協力して局面自体を転換させる努力をすべきなのである。(談)

(聞き手・成澤宗男〈編集部〉、10月6日号)

衆院選に向け、国会周辺に市民ら1300人 「リベラル結集」「改憲阻止」を

国会前で「安倍内閣退陣」を唱える参加者。9月28日、東京・千代田区。(撮影/文聖姫)

「安倍政権を必ず倒そう!」「みんなの力で政治を変えよう!」。参加者が国会議事堂(東京・千代田区)に向かって、声を上げた。9月28日の衆議院解散に合わせ、国会周辺に集まった1300人(主催者発表)が、国政を私物化した安倍首相への怒りを爆発させた。

この日、国会周辺では「憲法9条を変えるな!安倍内閣退陣9・28臨時国会開会日行動」が開催された。主催は「安倍9条改憲NO!全国市民アクション実行委員会」など3団体。

森ゆうこ参議院議員(自由党)が壇上に上がると、参加者から「野党は共闘せよ」の声がかかる。森氏はその声に応え、「さまざまな違いを乗り越えて野党が結集し共闘することが国民の願い」だと強調し、「どんな共闘になるかが問題で、それには市民の後押しが必要」だと訴えた。

民進党は、「名を捨てて実を取る決断」「好き勝手な安倍政権を終わらせるため」(前原誠司代表)だとして、小池百合子東京都知事が代表を務める「希望の党」への合流を決めた。これによって、民進、共産、自由、社民の野党4党による共闘は破綻した。

壇上に立った共産党の志位和夫委員長は、「希望のかけらもない」希望の党は「自民党の補完勢力にすぎない。こういう勢力との共闘は不可能」だとして、希望の党公認で出馬する候補者に対抗馬を出す方針を明らかにした。福島みずほ参議院議員(社民党)も、「希望の党は憲法改正を公約に掲げている。リベラル勢力の結集で憲法9条改悪を阻止しよう」と訴えた。共産、社民はできる限り候補者を一本化することで合意した。

「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)の山口二郎・法政大学教授は、「全国では野党と市民による血の滲むような努力で民主主義を守る態勢ができつつある。安倍政権退陣のためにみんなで投票に行こう。民進党に期待していた自分が愚かだと思うが、そんなことを言っても仕方がない。やれることをやっていこう」と呼びかけた。

全国労働組合総連合(全労連)の小田川義和議長は、「国政を私物化し、民主主義を破壊した安倍首相の暴挙は見過ごせない」として、今回の選挙を安倍退陣につなげたいと訴え、「市民と野党をつなぐ会@東京」の鈴木国夫さんは、運動を通じて「政治は地域から作れるし、候補者と一緒に作れるという新たな発見をした」と述べた。

「安倍政権にNO!東京・地域ネットワーク」共同代表を務める岡本達思さんの地元、板橋区では、昨年11月に「チェンジ国政!板橋の会」が発足。同会では、自分たちの声を真剣に届けてくれる人を国会に送りたいと思い、野党共闘を実現するために奔走してきた。民進党の希望の党への合流で先行きは不透明だ。岡本さんは「小池さんには安倍首相と同じにおいを感じる」と警戒。「目先の選挙のために希望の党を選んでいいのか」と、民進党の希望の党への合流に不信感を表した。「都民ファーストなんかじゃない。自分ファースト」と小池氏を非難するのは乾美紀子さん。若者たちには「戦場で戦わずに選挙で戦え。戦う相手は安倍政権」と訴える。

東京・足立区から参加した鎌田由利子さんは、「希望の党は第二の自民党。このままでは二大極右政党になってしまうとの危機感を持っている」と語る。「大人が責任をもって、子どもたち、次世代の将来のために、平和で安心できる世の中にすべきだ。それを問う選挙だと思う」。

【憲法研究者有志が声明】

前日の27日には、愛敬浩二(名古屋大学)、青井未帆(学習院大学大学院)の各氏ら90人の憲法研究者有志一同が緊急声明を発表し、解散・総選挙にいたる手順が、憲法の規定する議会制民主主義の趣旨にそぐわず、衆議院総選挙とその結果が、憲法と立憲主義を危機にさらすものであると非難した。また、憲法9条3項への自衛隊明記規定の追加は、「憲法の平和主義に対する脅威」だと指摘した。

選挙で問われているのは「自公vs.希望」ではなく、憲法への姿勢だ。

(文聖姫・編集部、10月6日号)