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厚労省、「残業代ゼロ」法案への批判を一括審議で封じる構え

厚生労働省は秋の臨時国会に提出する「働き方改革法案」に、格差是正や残業規制策とともに「残業代ゼロ」とも批判される、過労を助長しかねない相反する制度を盛り込もうとしている。趣旨の異なる法案をひとくくりにして審議時間の短縮を図る手法は同省のお家芸となりつつあるが、野党や労働組合は強く反発している。

「キメラ法案じゃないか」。働き方改革法案の概要を耳にし、連合幹部はそうつぶやいた。同じ体内に、異なる遺伝子情報を持つ生物になぞらえた批判だ。

厚労省が描く働き方改革法案は、(1)高収入の一部専門職を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度(高プロ)の新設(2)残業時間の上限規制強化(3)正社員と非正規社員の待遇格差を縮める「同一労働・同一賃金」導入──の三つを柱とする7法案を一本化し、一括審議の対象とするもの。野党が「残業代ゼロ」と糾弾する高プロだけでなく、批判を受けにくい格差是正策も交える点がミソだ。

野党の攻勢を弱めつつ、多岐にわたる制度を短い期間で一気に実現させることを狙う首相官邸や自民党国対の意向をくんでいる。

一方、民進党は個別の法案ごとに審議を求める構え。高プロに対しては「成果が得られるまで際限なく働かされる」と酷評してきた。支持母体の連合と反対で足並みをそろえ、法案修正を前提に一時容認に傾いた連合執行部との間に生じた溝を埋める意図もある。

残業の上限規制で政府は、年間の残業時間を720時間とすることを打ち出した。が、過労死認定ラインに限りなく近い「月100時間未満」との例外規定も設けられ、民進党は「過労死レベルの残業を容認したと受け止められる」と詰問してきた。片や同一労働・同一賃金は旧民主党時代の“専売特許”でもあり、真っ向からの批判はしづらい。労働政策に詳しい弁護士は「高プロのような経済界が求める規制緩和策と、労働者の視点に立つ同一労働・同一賃金などの規制強化策を一括法案にするのは常軌を逸している。批判封じの狙いが露骨だ」と指摘している。

厚労省が一括法案に味をしめたのは、2014年6月の通常国会で成立した医療介護一括法にさかのぼる。同法は介護保険の利用者負担増、医療・介護の連携策から歯科技工士国家試験の全国統一化まで、相互に何の関連もないものも混じる19法案を一本化したものだった。与党は衆院での強行採決も含めてこの大型法案を一国会で成立させ、効果を実感した。

昨年12月の臨時国会で成立した年金制度改革法も、現役世代の賃金が下がれば必ず年金受給額も減らす仕組みから、保険料を運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の組織改革まで、幅広い内容としていた。野党の反対で最後は撤回はしたものの、政府・与党はこの法案に、公的年金を受給するのに必要な保険料納付期間を25年から10年に短縮する「無年金者救済法案」まで含めようとしていた。

【「議論はかみ合わない」】

厚労省が一括法案への誘惑にかられる背景には、旧厚生、旧労働両省の合併による大規模省庁ゆえ、国会提出法案がきわめて多いことがある。14年から3年間の提出数でみると、同じ合併省庁の経済産業省の所管法案は17本で、国土交通省は24本。これに対し、厚労省は27本に及ぶ。厚労相の答弁回数は2934回と経産相の1243回を大きく引き離し、全省庁でも断トツの1位。厚労省分割案が浮上するゆえんだ。

「個別法案ごとに審議していたら、すべて成立させるには複数国会をまたぐ必要があっただろう。威力は絶大だ」。過去の一括法を厚労省幹部はこう評価する。

それでも、「項目が多すぎてほとんど審議されなかったものもあり、内部にも『奇をてらい過ぎた』との批判はある」とも漏らす。働き方改革法案の審議の行方についても、「規制の強化と緩和を同居させている矛盾を隠すため、政府は強弁せざるを得ない。議論はかみ合わないだろう」と認めている。

(吉田啓志・『毎日新聞』編集委員、9月1日号)