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特区諮問会議メンバーはなぜ前川喜平氏を攻撃するのか(佐々木実)

加計学園の獣医学部新設をめぐる問題では、国家戦略特区における規制緩和のあり方も問われている。この案件の担当が文部科学省であり、前事務次官の前川喜平氏が疑惑解明の鍵を握る人物として登場したことは、規制緩和行政の視点から眺めると、偶然とはいえない。

規制緩和の流れを遡ると、小泉純一郎政権(2001~06年)で大きな質的変化が起きたことがわかる。「社会的規制」がターゲットとされるようになったのである。それまで規制緩和の対象は、タクシーやバスにおける業者の参入規制のような「経済的規制」だった。

小泉政権が掲げる「構造改革」に呼応して、総合規制改革会議は労働、医療、教育、農業などの改革に照準を合わせた。「製造業における派遣労働の解禁」「混合診療の解禁」などだ。規制緩和に名を借りた社会改造そのものであり、規制緩和行政は変質した。

重点が社会的規制に移ると、所管する厚生労働省、文部科学省、農林水産省が「岩盤規制」を守る官庁として叩かれた。叩く側の総合規制改革会議の議長はオリックス会長(当時)の宮内義彦氏。1990年代半ばから政府諮問機関の常連となり規制緩和の旗を振り続けたが、オリックスが規制緩和ビジネスにかかわっていたことが判明後、厳しい批判を浴びた。

規制緩和に関するオーラルヒストリーで、宮内氏が興味深い証言を残している。

「経済官庁はよくわかる。どちらかというと理屈の世界ですね。財務省にしろ、経産省にしろ、わりかたわかってくれる。わかってくれない最たるものは、かつてで言えば労働省であり、厚生省であり、文部省であり、というところだったと思います。ここは、我々の理屈が通らないんです。経済を活性化するとか、選択の幅を広げるとか、そういうことでなく、私に言わせれば彼らは社会主義者なのです。違う理屈を持っているので、全く通用しない」(2006年8月のインタビュー:総務省関連の研究で公表はされていない)

宮内氏は労働や医療、教育の行政に携わる官僚を、ビジネスの論理を理解しない「社会主義者」とみなしていた。社会的規制を経済的規制と区別する発想はない。すべからく緩和、撤廃すべきという“原理主義”である。

宮内氏が小泉政権で大活躍できたのは、経済閣僚の竹中平蔵氏が手厚く支援したからだ。竹中大臣が司会する経済財政諮問会議に出席、議長である小泉首相の言質をとる巧みな連携プレーも見せた(ちなみに現在、竹中氏はオリックスの社外取締役)。

竹中氏が安倍政権に国家戦略特区を提唱した背景に、経済財政諮問会議での成功体験があった。特区諮問会議に集う面々は、宮内氏の論理を共有している。というより、その論理を実行に移すため、“原理主義者”たちが制度設計から運用まで、すべて仕切っているのが特区制度なのである。

状況を俯瞰すると、特区諮問会議のメンバーや彼らの賛同者が敵意むき出しで前川氏を攻撃するのも合点がいく。「特区ビジネスの旨味」を察知できない文科省の前次官なんぞ、唾棄すべき「社会主義者」にしか見えないのである。

(ささき みのる・ジャーナリスト。8月25日号)

昭恵氏「秘書」こっそり海外異動、加計学園「特区審査しない」大学設置審 安倍政権また「疑惑隠し」

谷査恵子氏のイタリア日本大使館への異動について「適材適所」と繰り返す経産省(手前右)と外務省の職員(同左)。(写真撮影/片岡伸行)

「国家戦略特区の要件は審議しない」

加計学園(本部・岡山市、加計孝太郎理事長)の獣医学部の設置審査をめぐり、文部科学省の松永賢誕高等教育局専門教育課長らの発言が波紋を広げている。折しも、安倍晋三首相の妻・昭恵氏付き「秘書」を務めた経済産業省職員・谷査恵子氏の在イタリア日本大使館への異動が発覚。安倍政権による「疑惑隠しだ」との批判がさらに高まりそうだ。

加計学園の獣医学部新設をめぐっては、国家戦略特区諮問会議議長である安倍首相の関与が疑われる数々の文書や証言が明らかになっているだけでなく、当初から、特区認定のための4条件(既存の獣医師養成ではない、新たに対応すべきニーズに応えるなど)を満たしていないとの疑惑もあった。そうした中、加計学園の獣医学部設置申請を審査中の大学設置・学校法人審議会は、8月下旬に出す予定だった「認可」答申を「保留」としたが、特区要件を満たしているかどうかの判断が焦点とされていた。

しかし、8月16日に東京・永田町の衆院第一議員会館内で開かれた民進党
「加計学園疑惑調査チーム」のヒアリングの席で、松永専門教育課長らは「大学設置審はカリキュラム内容、教員組織、施設・設備などについて学問的、専門的な審査をする」としながら、「国家戦略特区としての要件(4条件を満たしているかどうか)については審議しない」と明言した。

これに対し、疑惑調査チーム座長の桜井充参院議員や今井雅人衆院議員は「おかしい」と反発し、「4条件を踏まえた特別な獣医学部を作るとして認可されたにもかかわらず、その特区要件について審議しないとすれば、通常の獣医学部の審査と同じではないか」「内閣府は、新たなニーズに対応する獣医学部の質が確保されているかどうかは設置審で審議すると言い続けてきた。4条件を議論しないというのは矛盾する」などと指摘。内閣府も「教育のレベル、質の議論については設置審でやる」(塩見英之参事官)と認めた。文科省と内閣府の食い違いが明らかになっただけでなく、国家戦略特区の認定と大学設置認可をめぐる制度上の欠陥が露呈した形だ。

民進党側は文科省に対して次回(23日)のヒアリングで再度の説明を求めたが、かりに、設置審では国家戦略特区の要件を審査しないということになれば、千葉県成田市に今春開学した国際医療福祉大学の医学部新設に際しても同様に特区要件の議論を除外したことになり、設置審自体のあり方が問われよう。大学設置審議会は10月下旬に再度、加計学園の獣医学部を「認可」するかどうかの審査結果を出すことになっている。

【疑惑深まる谷氏の異動】

「国民から見たらどう考えても疑惑隠し。8億円値引きの核心を知る谷査恵子さんをなぜ海外に隠すのか。疑惑はますます深まる」

そう指摘するのは民進党の国会対策委員長・山井和則衆院議員だ。

谷氏は2015年11月、森友学園への国有地有償貸付の過程で籠池泰典理事長(当時)の要望に応える形でファクス回答をした。また、谷氏らには昭恵氏とともに自民党の選挙応援をした国家公務員法違反の疑いも指摘されている。

経産省と外務省の説明では、谷氏は16年1月に官邸から経産省に戻り、今年1月6日付で「在イタリア大使館一等書記官」の異動内示を受け、8月6日付で経産省から外務省に出向、異動発令となった。森友問題発覚後は「テレワーク」(自宅勤務)となり、“口封じ”された上で海外に飛ばされた形だ。しかし、国税庁長官に栄転した佐川宣寿理財局長(当時)と同様、「論功行賞人事」と指摘される。

「国会を閉じてからこの人事。国会中にはできなかった」(山井衆院議員)上に、異動発令が8月6日の日曜日で、同月15日までその事実を伏せていた姑息さが際立つ。8億円値引きの事前交渉のテープが出てきたこともあり、谷氏隠しをきっかけに森友学園疑惑の捜査進展を求める声も強まりそうだ。

(片岡伸行・編集部、8月25日号)