週刊金曜日公式ブログ 週刊金曜日ニュース

安倍首相は「火中の栗を拾いにいく」のか(佐藤甲一)

「冒険」とは、成算の少ない一種の賭けでもある。

7月28日午後、評論家の田原総一朗氏が首相官邸を訪れ、安倍晋三首相と面談した際に用いたとされるのが「冒険」という言葉である。その後思わせぶりにメディアの取材に応じた田原氏だが、安倍首相に「政治生命を賭けた冒険」を進言したことを明らかにしたものの、内容については言及を避けた。

巷間、その「冒険」とは北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)訪問であるとか、消費税の引き下げ、などと憶測が飛び交い、その後8月3日に行なわれた内閣改造の後は、この問題は大きく取り上げられることなく、推移してきた。

一方で、安倍首相は8月15日の「終戦記念日」にトランプ米大統領と北朝鮮問題で電話会談。北朝鮮がグアム島周辺へのミサイル発射計画を明らかにし、これにトランプ大統領が警告するなど米朝間の緊迫が高まる中での会談だったが、その晩には山梨県鳴沢村の別荘近くで森喜朗、小泉純一郎、麻生太郎の3元首相らと約3時間にわたり会食。新聞などでも特に大きく報じられることはなかったが、この15日の動きこそ「冒険」の中身と関わっているという。

安全保障政策に関わるある政府関係者は、7月末の田原氏との会談後、首相は熟考を重ねてきたのだと説明する。導いた結論、つまり安倍首相がいまできうる「冒険」とは「安倍訪朝」以外にない、というものだった。15日のトランプ氏との電話会談、そして同じ晩の3首相経験者との会食の主要議題こそ「安倍訪朝」の内諾、そして訪朝経験者を招き、何がなしうるかの検討会だったというのだ。

政府関係者は、その直後の17日に行なわれた日米の外交・防衛担当閣僚による「日米安全保障協議委員会」、いわゆる「2プラス2」では安倍訪朝に関する米国側との具体的なすり合わせが隠された主要議題だった、と指摘する。米朝の対立が一度は頂点に達し、金正恩氏の「米国の様子を見守る」発言でいったん緩和したかのように見える米朝関係の陰で、日本を軸にした、対話のための工作が進行している、というわけだ。

しかし、先の政府関係者に「日本が持っていけるものは具体的にあるのか」と尋ねると、案の定「それはない」という。それでも、この訪朝が期待されるのはなぜか。マティス米国防長官の選択の中に北朝鮮への武力行使は絶対にない、韓国に人的被害が出ることは、市民を巻き込むことは軍人として軍歴の汚点となることだけに、「ありえない」という。ならば残された選択は対話しかないが、米国が直接関わることになれば、失敗は許されない。その前にどうしても北朝鮮の出方を探る必要がある。その「火中の栗を拾いにいく」のが安倍首相、ということか。

有効な交渉のカードもなく敵地に赴くのは「冒険」ではなく「無謀」である。まして、この訪問が安倍首相にとって唯一の利点と見ることができる「拉致問題」解決のきっかけにつながる見込みは、今のところ見いだしえない。

政権浮揚の有効な手立てもなく、悲願とする憲法改正の実現はすでに「黄信号」が点っている安倍政権。訪朝の模索は真夏の「怪談」なのか、それとも東アジアの安定をもたらす歴史的な試みが水面下で進んでいるのか。「2週間前後で、その姿は見えてくる」というのだが。

(さとう こういち・ジャーナリスト。8月25日号)

東京大学が非常勤職員8000人大半の雇い止めを強行か

東京大学で働く約8000人の非常勤教職員の大半が、来年4月以降雇い止めされる可能性が高くなった。8月7日に開かれた東京大学教職員組合と首都圏大学非常勤講師組合との団体交渉で、大学側が明確にした。

東大の非常勤の雇用形態は2種類ある。「特定有期雇用教職員」は特任教員や看護師・医療技術職員など約2700人。「短時間勤務有期雇用教職員」は、パートタイムワーカーで約5300人もいる。

2013年4月に施行された改正労働契約法は、5年以上同じ職場で働く非正規労働者が希望した場合、無期雇用に転換することを定めている。組合側は、2018年4月以降、希望者全員の無期雇用転換を求めているが、大学は契約期間の更新を上限5年とする「東大ルール」を法律よりも優先。法人化前から働く480人など一部を除いて雇い止めする方針だ。

また大学は、短時間勤務の教職員は6カ月のクーリング期間をおけば上限5年での再雇用が可能としている。しかし、無期転換を避けるためのクーリングは違法または脱法行為とされる。しかも以前は3カ月だったクーリング期間を、改正法の成立後、雇用期間が「リセット」される6カ月に変更した。これは労働条件の不利益変更だが、労基署に届け出ていない疑いがあり、非常勤講師組合は労働基準法違反で刑事告発を検討している。

団交で大学は、無期雇用できる「職域限定雇用職員」制度を来年4月に作るので、法に矛盾しないと主張。試験を行なうというが採用人数は明らかにしていない。

全国86の国立大学法人で働く非常勤教職員は約10万人。文部科学省によると、法改正を受けて無期転換を決めたのは6法人だけで、東大の対応が正当化されると、追随する大学が出てくる可能性がある。最も模範になるべき存在の東大がこのまま雇い止めに突き進むのか、今後の対応を注視したい。

(田中圭太郎・ジャーナリスト、8月25日号)