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民主主義を窒息死させる共謀罪(宇都宮健児)

2017年6月30日12:35PM

共謀罪(テロ等準備罪)法案は、5月23日の衆院本会議で、自民・公明・日本維新の会の賛成多数で可決され、現在参院で審議されている。(編注:6月15日、“異例”の中間報告により参院法務委員会での採決を省略し、参院本会議で可決・成立)

安倍晋三首相は「2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて(共謀罪の)創設が不可欠だ」と強調し、共謀罪法案をあたかもテロ対策法案であるかのように説明している。

しかしながら一方で政府は、2000年11月に国連総会で採択された「国際組織犯罪防止条約」を批准するために、共謀罪法を制定する必要があると説明してきている。

国際組織犯罪防止条約は、マフィアなどによる国境を越えた麻薬取引、人身売買、マネーロンダリングなどの経済的利益を追求する組織的犯罪を取り締まることを目的とした条約である。

したがって、政府が説明しているようなテロ対策を目的とした条約ではないのである。テロ対策に関しては、日本は既に「ハイジャック防止条約」「人質行為防止条約」「爆弾テロ防止条約」「核テロリズム防止条約」など13の国際条約を批准している。

また、国際組織犯罪防止条約を批准するために、共謀罪の新設が必ず必要とされるかというとそうでもない。わが国では、内乱罪、殺人罪、強盗罪、爆発物取締罰則違反などの重大犯罪については、「予備」「準備」「陰謀」「共謀」などを処罰する制度が整っているので、新たに共謀罪を新設しなくても、国際組織犯罪防止条約を批准できるのである。

国際組織犯罪防止条約は187カ国・地域で既に批准されているが、共謀罪を新設したのはノルウェー、ブルガリアの2カ国だけである。

共謀罪は過去三度廃案となっているが、今回の法案で新たに要件として付け加えられた「組織的犯罪集団」や「準備行為」は定義があいまいであり、実質は「犯罪の合意」を処罰する法律であるという点では、これまでの共謀罪法案と変わらない。

わが国の刑事法体系は、「意思」を処罰するのではなく、法律違反の「行為」を行なったこと、すなわち「既遂」を処罰することを原則としてきている。

共謀罪法案は、法律に違反する犯罪行為を実行しなくても、話し合っただけで市民を処罰できる思想・言論の処罰法である。

「犯罪の合意」を処罰する共謀罪では、盗聴が共謀立証の重要な手段になってくる。そのため、電話、メール、ライン、市民の会話などの盗聴が行なわれ、市民の日常生活が監視される危険性がある。また、共謀立証のためいろいろな団体やグループに捜査機関がスパイを送り込んだり、協力者をつくり、共謀があったことを密告させることになりかねない。

このように共謀罪法案は、わが国において監視社会化を進め、自由な言論活動を萎縮させ民主主義社会を窒息死させる法律である。

国連のプライバシー権に関する特別報告者のジョセフ・ケナタッチ氏も共謀罪法案に関し、「プライバシーの権利や表現の自由を不当に制約する恐れがある」と批判している。

あまりにも問題の多い共謀罪法案は、参院で廃案にするしかない。

(うつのみや けんじ・弁護士、6月16日号)

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