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医療と介護報酬めぐり財政規律派の財務省が自民党に揺さぶり

2017年6月7日1:45PM

2018年度は診療報酬と介護報酬が同時に改定される6年に一度の年に当たる。主要テーマは「医療と介護の連携強化」。必要財源が固まる年末の政府予算案編成をにらみ、関係者の間では早くも前哨戦が始まっている。

診療報酬は2年ごとに見直される、手術、入院料などの医療サービスや薬剤の公定価格。一方、介護報酬はヘルパーの派遣など介護サービスを提供した事業者が受け取るお金で、改定は3年ごと。医療、介護双方に目を配れる同時改定は6年に一度となり、18年度の次は24年度までない。

同時改定に向け、厚生労働省が本格的に議論を始めたのは3月22日。改定内容を決める審議会の委員を集め、「医療と介護の連携に関する意見交換会」を開いた。冒頭、同省の迫井正深医療課長は「2025年までに大きく舵を切る
ことができる実質的な最後の機会。重要な分水嶺だ」と述べた。

2025年は75歳以上の人が急増する年。その後、高齢の死亡者は激増する。

医療と介護の連携を進める際に不可欠となるのが「看取り」の推進だ。住み慣れた場所で死ぬことを望む人が多いのに、医療関係と介護事業者の間の意思
疎通がなかったり、在宅での看取りが難しかったりで、終末期に病院へ搬送さ
れる人は少なくない。このため、自宅や介護施設でも看取りをできる体制を整
えることが喫緊の課題となっている。

看取りの推進には、病院を退院した人の介護の受け皿確保や24時間体制の訪問診療・看護への手厚い報酬配分が必要となる。ただ、社会保障費の抑制も避けて通れない。財源の4割を税が占める報酬の改定率は、年末の政府予算編成時に決まる。優先度の低い医療・介護のサービス価格を下げ、メリハリをつける中で全体の改定率をプラスとするか、マイナスとするか、攻防はすでに始まっている。

政府は20年度のプライマリーバランス(PB)黒字化(過去の借金返済分を除き、新たな借金なしに政策経費を賄えること)を掲げる。目標達成に躍起の財務省は、15年度改定の介護報酬をマイナス2・27%、16年度の診療報酬をマイナス1・03%に押さえ込んだ。また、16~18年度の社会保障費の伸びを計1・5兆円に抑える目標に向け、最終の18年度も1000億円台の削減を目論む。標的は予算額が約12兆円の医療費と約3兆円の介護費で、かかりつけ医以外を受診した人に定額負担を求める制度の導入や、高齢者の医療、介護費の負担増を迫っている。

これに対し、日本医師会の横倉義武会長は4月26日の記者会見で、「アベノミクスで経済が回復しつつある。それに見合う形(の診療報酬)でもいいのではないか」と反論した。横倉氏を後押しする自民党厚生族幹部も「(高額の抗がん剤)オプジーボの薬価引き下げや高給の人の介護保険料アップなどで18年度はすでに700億円弱分の社会保障費削減にメドがついている。診療、介護報酬を下げる必要はない」と訴える。

【巻き返し図る財務省】

「自民党からも、そんな提言をしてほしい」。4月6日、安倍晋三首相は、PB黒字化にとらわれず、積極的な財政出動が必要と申し入れた自民党の西田昌
司参院議員にそう応じ、PBにはこだわらない考えを示唆したという。

この話を耳にした厚労省幹部は、「社会保障費でも経済の好循環を生むものは削減対象外」と受け止めた。「介護離職ゼロを掲げる政権が、それに反するマイナス改定に踏み込むのは難しいのでは。来年末までには衆院選があるのに、お年寄りを泣かせ、日医を怒らせて与党にいいことはない」と期待を込める。

財政規律派には分の悪い空気も漂うなか、財務省は診療報酬を地域別に決める案まで持ち出し、全国一律の報酬にこだわる日医を揺さぶっている。安倍政権の財政規律の緩みを懸念する同省関係者は「同時改定時こそ、医療費、介護費の無駄を削ってメリハリをつけないと国の財政が危うくなる」と漏らし、巻き返しを図っている。

(吉田啓志・「毎日新聞」編集委員、5月26日号)

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