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加計学園疑惑にみる安倍官邸の「恐怖政治」(佐藤甲一)
2017年6月6日3:06PM
2018年春に愛媛県今治市で獣医学部の開設を目指す「加計学園」をめぐる問題が再浮上した。国家戦略特区の認定、新設学部の認可をめぐって内閣府職員が文部科学省の担当官に「総理の意向」をかざして手続きの加速化を求め、そのやりとりを記した文書が現れたのである。この問題は「森友学園」の「忖度」で済まされない問題をはらんでいる。
5月17日の衆議院文部科学委員会で文書の存在を明らかにした民進党の玉木雄一郎衆院議員の質問に、松野博一文部科学大臣は、学部新設について「設置時期をあらかじめ提示、書き込むようなことは審議会との関係においてどうなのかと話した記憶がある」と答弁した。
新設学部の認可は文科省の諮問機関である大学設置・学校法人審議会において厳正に審査される。委員は大学関係者などからなり、審査内容は施設や教員の配置、カリキュラムの内容まで多岐にわたる。にわかに提出したから通るものでは到底ありえない。松野大臣はそうした認可の手続きを念頭に、16年1月に戦略特区認定、3月末に学部新設の申請、8月末に認可の判断提示というスケジュールからみて準備不足に陥ることはないのかとの真っ当な疑問を示した、と受け止められる。
言い換えれば、国家戦略特区という安倍内閣の「三本の矢」の一つである目玉政策だからと言って厳正な認可基準を曲げることはあってはならないとの懸念を示したもので、そう指摘せざるを得ない状況認識が存在したことを物語っている。
52年間認められてこなかった獣医学部の新設が本当に必要かどうかは意見が分かれる。百歩譲って獣医師の増員は必要で、さらに今治市が国家戦略特区に認定するに相応しいとしても、そのことと開学を前提として日程を区切り、あたかも大学設置基準を「緩和」してでも間に合わせろというのは本末転倒である。
「総理の意向」の有無は別としても、内閣府が主導する日程ありきの進め方は、文部科学行政の公正な進め方とは相容れない。松野大臣の答弁から安倍政権の目玉政策という「大義」を掲げて、適正な行政の執行をねじ曲げることを強要するかのような振舞いが、霞ヶ関の内部にあることが明らかになったのである。
さらに重大なことがある。先の委員会で「文書が作成された可能性はある」と答弁した松野文科大臣に対し、菅義偉官房長官は5月17日の会見で「文書の作成日時や作成部局が明確になっていない」などと述べ、「怪文書の類い」と決めつけた。松野大臣が言及した「存在の可能性」についての調査は19日に行なわれたが、関係者7人から1人当たりわずか10分?30分の聞き取りで済まされ、「確認できなかった」との結論に終わっている。菅官房長官が「怪文書」と頭ごなしに決めつけたものに、松野大臣が異論を唱えられるはずもない。
懸念すべきは菅官房長官をはじめとする安倍官邸の霞ヶ関に対する「恐怖政治」ともいえる「統制」であり、安倍首相周辺が絡む事案によって、行政の公平性がねじ曲げられようとしている事実である。だが、そうした手法への反感も霞ヶ関内に燻っていることは、図らずも松野大臣の答弁から明らかになった。政党政治を否定するかのような安倍首相の改憲提案もあわせ、「安倍一強政治」の歪みが露わになりつつある。
(さとう こういち・ジャーナリスト。5月26日号)