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生徒も「国歌斉唱」の強制対象に 都立高校教員らが抗議集会「卒業式はだれのものか」

2017年4月19日10:29AM

生徒の起立を何回も促す台詞が記載されている都立高校の「卒業式進行表・台本」(固有名詞は筆者が黒塗り)。(撮影/池添徳明)

2003年に東京都教育委員会が「教職員は国旗に向かって起立し国歌斉唱する」と規定した通達(10・23通達)を出してから14年。卒業式で国歌斉唱の際に起立しなかった都立高校教員を、都教委が事情聴取したことに抗議し、処分させないように支援する教員らの集会が3月31日、東京都内で開かれた。

都教委通達が出た当初は約200人の教職員が不起立などで懲戒処分されたが、処分者数は年々減少している。

今年の卒業式で起立しなかった教員は2人。この日までに処分は発令されていないが、4月中旬以降に処分発令があると見られている。年度内に発令されなかったのは今回が初めてという。

都教委は教職員に国歌斉唱や起立を強いるだけでなく、生徒の行動を制約する動きも見せている。思想・良心の自由に基づいて、生徒には自主的に判断し行動する権利があるはずだが、都教委は、教員が生徒に「内心の自由」について説明するのは不適切だとしている。多数の生徒が起立しなかった学校では、担任や管理職の指導責任が問われたこともある。

この日の集会では、今年の都立高校の卒業式は「生徒への指導」がさらに一段と強化されたことが報告された。

都教委は今年1月に開かれた校長連絡会と副校長連絡会で、「生徒への指導が適正か、教職員の指導状況を確認するように」と指示した。各校が作成し都教委に提出する卒業式の進行表(台本)に、「起立しない生徒がいたら司会が起立を促す」「全員の起立が確認できたら式を始める」といった記載がないと受け取ってもらえず、都教委から強い指導を受けるようになったという。

しかし、中には都教委の指示以上に、何回も起立を促す台詞を記述する学校もあった。以下のような内容だ。

「司会『国歌斉唱』」「起立していない生徒多数の場合には、起立を促すようにする」「司会『ご起立下さい』」「それでも起立しない場合は、副校長が司会席へ移動し、副校長『ご起立下さい』」「生徒、教職員の起立を確認した後、副校長が司会に開始の合図を送る」(実際の卒業式進行表・台本から抜粋)

報告した女性教員は、「都教委通達のターゲットが生徒にあることがはっきりした。卒業式はだれのものなのだろうという疑問を強く感じる」と訴えた。

【「全体主義化見過ごせぬ」】

集会では、国歌斉唱の際に起立しなかった教員2人が心情を語った。

男性教諭(55歳)は今回で4回目の不起立になる。式場に「君が代」のメロディーが流れている最中ずっと、副校長から「あなたは校長の職務命令に従わないのですか。起立できないのですか」と周りの人が振り返るような大きな声で言われ続けたという。

「副校長は都教委の指示通りにやったとのことだが、厳粛な式の進行を妨げているのはどっちなのでしょうか。『君が代』に恨みはないが、人々を管理統制し動員する危険な道具として使われていることに警戒心がある。命令されて個が圧殺される全体主義化を見過ごしてはいけない、黙して語らずではダメだという思いから不起立を続けています」

一方、女性教諭(57歳)は定時制の3年生の担任として、教育課程の弾力化によって早期卒業する生徒1人を送り出した。悩んだ末に起立しなかったという。

「来年は4年生の卒業式に出席するはずでしたが、担任からは外されました。もちろん管理職は不起立のせいだとは言わない。卒業式に出席して生徒の名前を呼んだことには満足していますが、もやもやした気持ちは消えません。担任を外されて生徒には申し訳ないです」

懲戒処分された教員について校長は3年間、「実績・行動記録報告書」を作成し、処分後の行動や改善実績を学校経営支援センターに報告するという。監視・把握され続けて、まるで犯罪者のような扱いだ。

(池添徳明・ジャーナリスト、4月7日号)

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