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南西諸島の自衛隊配備問題、性暴力への懸念表明した
沖縄の宮古島市議に脅迫的な攻撃も

2017年4月5日7:10PM

沖縄県宮古島市の石嶺香織市議が3月9日フェイスブックに投稿した発言(注1)をめぐり、同市議会は3月21日、辞職勧告決議を賛成多数で可決した。この騒動に乗じて、南西諸島への陸上自衛隊配備問題もうやむやにするつもりか。(『週刊金曜日』取材班)

 

今年1月22日投開票の宮古島市議補欠選挙(欠員2)で、石嶺香織氏は初当選した。一昨年頃から陸自配備計画に反対する市民グループ「てぃだぬふぁ 島の子の平和な未来をつくる会」の共同代表として、この問題に取り組んできた背景がある。

南西諸島の軍事問題は米軍関連にとどまらない。奄美大島や宮古島、石垣島、与那国島では、不安を抱える住民の声を無視する形で配備計画が強行されているのだ。問題は山積みであり、住民間ではずさんな計画への危機意識が次第に共有されつつある。

南西諸島への自衛隊配備問題

2016年12月、在日米軍がSNSで公開した画像。(在日米海兵隊のFacebook公式アカウントより)

冷戦体制の終焉にともない自衛隊が新たに見出した大義が、対中国を念頭におく「南西シフト」の構想だった。他方、昨年末は在日米軍がSNSで公開した画像が波紋を広げた。説明には〈海兵隊と自衛隊による日米共同方面隊指揮所演習の戦闘予行〉などとあり、床一面に広げられた地図中の宮古島の一端を、指揮棒を持つ米兵が踏みつけている写真だった。

2015年4月に発表された新「日米防衛協力のための指針」には、〈施設・区域の共同使用を強化〉することなどが盛り込まれている。こうした点を考慮すれば、今後自衛隊施設を米軍が共同使用する可能性もある。宮古島ではこのほか陸自配備計画により、住民の生活水源が汚染される危険性も浮上した。

国境の与那国島は16年3月末に160人規模の陸自沿岸監視隊が配置されたが、急ピッチで強行された施設建設の工事により生態系破壊が進んだ。人口1500人ほどの住民は誘致推進派と計画撤回派に分断され、溝はいまも埋まっていない。陸自配備にともなう “経済効果”については「思っていたほどではないというのが実感」といった声も漏れる。

そもそも自衛隊の主な任務は、有事における武力攻撃の排除にある。市民の救助、救難、避難といった根本的な対策(つまり国民保護計画の整備など)は各自治体に“丸投げ”されているのだ(注2)。石嶺市議のみならず島々の住民は、初期段階からこうした諸問題を追及してきた。

一方、「友人や身内が自衛官という人もいる。気軽に政治的発言はできない」(30代男性)というのも各島を取りまく実情だ。自衛隊批判はタブー視される傾向にあり、コミュニティで話題にすることにも緊張が走るという。

南西諸島で陸自配備に抗う人びとを描いた映画『標的の島 風かたか』(現在公開中)の三上智恵監督は、〈自衛隊にいる人たちを否定したくないという気持ちがありながら、配備計画撤回を求めていく島の人たちの葛藤を伝えたかった〉と本誌に語った(3月24日号インタビューより)。宮古島の住民の1人は、「島の人たちには言葉では言い表しがたい葛藤がある」とした。“軍隊と性暴力”の関係について石嶺市議が懸念を表明したことは、こうした文脈上での出来事だった。

「市議の発言は妥当だ」

宮古島市議会事務局には、3月21日までに計523件の電話やメールが届き、約7割が石嶺市議に対する批判だったという(『琉球新報』3月22日配信記事より)。

支援者によると誹謗中傷が多数あり、「死ね」「市議を見つけだせ」「晒し首に」との暴言や、「電気棒」といった物で家族への危害を示唆する文書もある。地元関係者はこう証言する。「しかし市議会事務局は当初、石嶺市議に無断で、事務局側に届いた文書を意見対立する議員らにも回覧していたのです」

島内外からは「(自衛隊への)職業差別だ」「根拠なき断定」などの非難が殺到しているというが、一方では「自衛隊という組織の過去と現在を見つめるかぎり、発言内容は妥当だ」との声もある。筆頭は元「反戦自衛官」の小西誠氏だ。

小西氏は「自衛隊内部はさまざまな問題を抱えている」とした上で、「営内班居住義務のある自衛官は24時間監視下で、内部では私的制裁やパワハラ、いじめが横行。基本的人権も事実上適用されない状態です。抑圧的環境では組織内外の弱者が暴力の対象になる。自衛官自身やその周囲では、泣き寝入りを強いられる人も少なくありません」と指摘する。

16年12月に『オキナワ島嶼戦争 自衛隊の海峡封鎖作戦』(社会批評社)を上梓した小西氏は、「東日本大震災等を通じて、自衛隊の災害救助面が評価されるようになった半面、武力を伴う組織であるということも、無批判のまま正当化、タブー視されつつある。この状況下で進んでいるのが南西諸島への陸自配備」だと警鐘を鳴らす。

離席した議員に問題あり

石嶺市議が脅迫を含む暴言や物理的な嫌がらせを受けていることについて、識者からは「市議に対するバッシングは、それ自体が人権侵害にあたる」「実際に被害者が出たとき、声を出しづらくなるおそれがある」といった指摘もある。

だがこうした点さえ議論することなく、宮古島市議会は3月21日、石嶺市議に対する辞職勧告決議を20対3の賛成多数で可決した。石嶺市議は弁明文(注3)を読み上げこの決議を「拒否」したが、22日一般質問で同市議が登壇した際、「反省の色が見えない」などとして15人の男性市議(注4)が無断で離席し、流会という事態に陥った。

沖縄の基地問題に詳しい宮平真弥氏(流通経済大学法学部教授)はこう批判する。
「石嶺市議は自身が不適切だったと認めた発言部分をすでに撤回・削除した上で謝罪しています。しかし22日の市議会では無断で離席した市議が多数いました。根本的な議会制民主主義の否定であり、こうした態度こそ本来は責任が問われるものです。有権者に対する背信的行為とみることもできるでしょう」
(3月31日号記事を一部修正)

<注1>
在日米海兵隊が公式サイトに掲載した2月23日のニュース(「陸上自衛隊がカリフォルニアでの演習に参加」)をシェア(共有)する形で、石嶺香織市議は3月9日、自身のフェイスブックにコメント付きの投稿をした。内容は以下の通り。〈海兵隊からこのような訓練を受けた陸上自衛隊が宮古島にきたら、米軍が来なくても絶対に婦女暴行事件が起こる。軍隊とはそういうもの。沖縄本島で起こった数々の事件がそれを証明している。宮古島に来る自衛隊は今までの自衛隊ではない。米軍の海兵隊から訓練を受けた自衛隊なのだ。私は娘を危険な目に合わせたくない。宮古島に暮らす女性たち、女の子たちも。〉――投稿した直後からネット上での“炎上”が始まった。

<注2>
南西諸島での“国民保護”は二の次のズサンさ──陸上自衛隊の配備に前のめりな安倍政権の無責任」(内原英聡)小誌2016年9月23日配信

<注3>
石嶺市議が21日議会で読み上げた弁明文。〈私の3月9日と10日のFacebookの投稿文に関して、私はすでに3月12日に謝罪文を出しています。これは私の個人的なFacebook上での発言ですので、Facebookで謝罪し、マスコミにも謝罪文を出しました。(中略)また、私の発言により議会事務局や当局の業務に支障をきたし、ご迷惑をおかけしたことを加えてお詫びいたします。今回の件について、議会が辞職勧告決議案を出すということは、不当であると考えます。(中略)私は7637人の市民が選んでくださった議員であると自覚しています。決して議会が選んだ議員ではありません。私は、「平和な未来といのちの水を子どもたちに手渡したい ミサイル新基地建設反対」という政策を掲げて、今回、市民の負託を受けました。平和な未来をつくるため、ミサイル新基地建設を止めるために、これから精一杯頑張りたいと思います。よって、私石嶺かおりは、辞職勧告を拒否いたします。〉

<注4>
3月21日に途中議会退席した宮古島市議は、前里光健、下地勇徳、粟国恒広、平良敏夫、上地廣敏、仲間則人、西里芳明、富永元順、嵩原弘、下地明、佐久本洋介、平良隆、前里光惠、垣花健志、新里聰――の15人。

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