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最高裁で異例の逆転無罪判決 広島の元人気アナが語ったこと

2017年3月30日1:30PM

判決後改憲する煙石博さん(左)。右は支援団体の佐伯穣会長。東京・霞が関。(撮影/片岡健)

「静かな余生の、普通の生活に早く戻れればと思います」

3月10日、東京・霞が関の司法記者クラブ。煙石博さん(70歳)は万感の思いを込めてそう言った。

広島・中国放送の人気アナウンサーだった煙石さんは定年退職後の2012年10月、突如自宅にやってきた広島南署の刑事2人に逮捕された。容疑は銀行で女性客が記帳台に置き忘れた封筒の現金6万6600円を盗んだ疑い。無実を訴えたが、一審・広島地裁で懲役1年・執行猶予3年、二審・広島高裁で控訴棄却の判決を受けていた。

しかしこの日、最高裁第2小法廷の鬼丸かおる裁判長は一、二審判決に「重大な事実誤認がある」と認め、煙石さんに無罪を宣告。最高裁で逆転無罪が出たのは直近5年でわずか4件。異例の無罪判決はテレビや新聞で大きく報道され、煙石さんは逮捕から約4年半を経て、名誉回復が果たされた。

ただ、地元広島では、この事件は一審段階から冤罪を疑う声が根強かった。最高裁は無罪の根拠として、「防犯カメラの映像では、被告人が封筒を持ち歩く場面、内容物を抜き取る場面は確認できない」と認め、「封筒を窃取した者がいるとしても、現金を抜き取り、封筒だけを記帳台に戻すとは考えにくい」と封筒に元々現金が入っていなかった疑いを指摘したが、これらもすべて弁護側が一審段階から主張していた。

それだけに煙石さんは無罪を喜びつつ、「『おめでとう』とは思えない。元々お金を盗っていないのに、突然とんでもない火の粉を浴びて苦しめられ、人生を失ったのですから」とも語った。逮捕後はフリーで続けていたアナウンサーの仕事もなくなったという。

「私のように無実なのに濡れ衣を着せられて苦しむ方が出ないように強く願っています」と力を込めた煙石さん。それは裁判中、熱心な支援活動を繰り広げた友人、知人らの願いでもあるという。

(片岡健・ルポライター、3月17日号)

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