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オスプレイは“空飛ぶ恥”(黒島美奈子)

2017年3月14日4:50PM

つぶの一つ一つにさわれそうなゴーヤーや、花びら1枚1枚がピンと張ったアザミ。植物をモチーフにした繊細な水彩画の作者は、沖縄で暮らして20年になるという奥西眞澄さん(77歳)だ。航空自衛隊の元パイロットで、約30年間、民間航空会社のパイロットをも務めた経歴を持つ。今年1月に「オスプレイを斬る」の題名で紙芝居を披露し話題を呼んだ。

「みなさん、飛行機が羽ばたくことを知ってますか?」。航空力学の知識を駆使し、オスプレイの構造をコウモリや竹とんぼになぞらえて解説する。「分かりやすい」と評判で講演の依頼が舞い込んでいる。2月中旬に初めて会った日にも、その携帯電話に、紙芝居を譲ってほしいとの依頼が寄せられていた。

奥西さんは広島県呉市出身。商船大学への進学が決まっていたが「模擬試験代わりに」と友人に誘われ空自を受験したのが入隊のきっかけだ。一緒に受けた7人のうち合格したのは奥西さん含め2人だけ。入隊後は、戦闘機の操縦に必要な数学・物理・英語の履修を徹底させられた。テストの出来が悪いと除隊もあったといい、当初180人余の同期は2年目が終わるころは70人余に。奥西さんは、同期で数人というテストパイロットになるほどの優秀さだった。

「戦闘機はスポーツカーのようなもの」と言う。夢中になるのに時間はかからなかった。特にテストパイロットの仕事はやりがいがあった。操縦にたけたテストパイロットが「安全」と判断して初めて、他のパイロットが操縦できるようになる。危険な仕事だが手当は当時1日200円だった。「命を懸けてこの額か」と皮肉ったこともある。それでも操縦できる喜びが勝った。34歳で空自を後にしたのは、地上勤務に配属されたことが理由だった。空の仕事を求めて民間航空会社に入社した。

温暖な気候にひかれ沖縄で暮らすようになったのは55歳のころ。61歳でパイロットを退職。8年前に脳梗塞から失語症を発症した。当初は、病室で医師の問いかけに答えようとしても声が出ず、絶望感を味わった。リハビリに始めたのが描くことだった。

日常を取り戻し始めたころ、米軍普天間飛行場へのオスプレイ配備を知った。戦闘機のパイロットだった経験から、構造上の問題には早くから気づいた。「オスプレイは、パイロット仲間には“空飛ぶ恥”と呼ばれている。買うのは世界中探しても日本ぐらい」。

昨年、いつも参加する模合(沖縄での頼母子講)でオスプレイの話をしたら「危険性がよく理解できた」と好評だった。得意な絵と一緒に説明すればさらに分かりやすくなるのではないかと、切り絵の紙芝居を作成した。

失語症の影響で以前のようにはしゃべれない。早口でのやりとりは苦手なので、あらかじめ台本を作成して臨む。披露する前日は何度も練習を重ねるという。「そこまでしてなぜ訴えるのか」という問いへの答えが印象的だった。

「沖縄風に言えば『ワジワジー』(怒り心頭に発)している。自衛官の安全と命を政府は何だと思っているのか」

危険なオスプレイの導入、「戦闘」のある海外への派遣……。「国を守ると言いながら、国民を危険に晒す行為だ」。元自衛官の奥西さんの言葉が重い。

(くろしま みなこ・『沖縄タイムス』記者。3月3日号)

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