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北朝鮮がミサイル発射――米朝で第2次朝鮮戦争の可能性は?

2017年3月1日10:17AM

北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)は2月12日午前(日本時間)、訪米中の安倍晋三首相がトランプ大統領と懇親を深めているタイミングで弾道ミサイルを発射した。前日の日米首脳会談で北朝鮮の核・弾道ミサイル計画の放棄と挑発行為をしないよう求めた直後であり、両首脳は共同記者会見を開き、ミサイル発射を強く非難した。北朝鮮にとって、また日米両国にとっても危険なカケが始まりつつある。

トランプ氏は大統領選挙前の昨年5月、「対話することに何ら問題はない」と金正恩委員長との首脳会談に意欲を示す発言をしていた。だが、当選後、北朝鮮への働きかけは一切なかった。

焦れたのだろうか。金正恩委員長は元旦の朝鮮中央テレビで「大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発が締めくくりの段階にある」と主張した。注目を集めることにより、“金王朝”の安定を図ってきた若い指導者にとって「危険なラブコール」が今回のミサイル発射だったようだ。

ミサイルは、12日午前、西部の平安北道・亀城から発射され、500km以上飛行して日本海に落下した。韓国軍は中距離弾道ミサイル「ムスダン」の改良型の可能性が高いとしている。

注目されるのはトランプ政権の出方だ。共同記者会見で「断じて容認できない」と強く非難する安倍首相の後、登壇したトランプ大統領は「米国は100%、同盟国の日本とともにある」と述べただけ。質問には答えなかった。

かつて米国は北朝鮮を攻撃する計画を立てたことがある。1993年、北朝鮮は核開発を進めるため核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言した。米国は核開発施設のある寧辺を空爆する計画をたて、第2次朝鮮戦争に発展した場合の損害を見積もった。その結果、米軍と韓国内に甚大な人的損害が出るとわかり、攻撃を断念した。

攻撃断念にはもうひとつの要素がある。米政府から日本政府に対し、米軍への後方支援や米艦艇の港湾使用など1059項目の支援要請があり、日本政府はいずれも「憲法上、武力行使は認められていない」と断ったことだ。

自衛隊の支援や日本列島の使用が認められなければ、朝鮮半島での戦争遂行は不可能に近い。1950年の朝鮮戦争当時、日本は独立しておらず、米軍は思うがまま日本を出撃基地および後方支援基地として活用した。

【切り札を切るのはどっち?】

米国の要請を断ったことで日米関係は極端に悪化した。これを修復するため、日本は周辺事態法を制定、朝鮮半島有事の対米支援を可能にした。安倍政権下の2015年には日米ガイドラインを改定し、日本の「存立危機事態」や国民の生命に重大な影響がある場合には集団的自衛権行使を解禁し、米軍への後方支援もほぼ全面解禁した。この年、安全保障関連法が制定され、日米ガイドラインに息が吹き込まれたのである。

一方、北朝鮮は03年に再びNPT脱退を宣言、5回の核実験を成功させ、ICBM同様の技術が必要な「人工衛星」の発射に2回成功した。昨年は20回を超えるミサイル試射を行ない、核・ミサイル技術を着実に進展させている。

93年の朝鮮半島危機の頃とは状況が違うのだ。北朝鮮は事実上の核保有国となり、日本は憲法解釈を変更して米国とともに戦争できる国に変わり、米国は日米ガイドラインにより、自衛隊を活用できるお墨付きを得た。

防衛省関係者はこういう。「論理的にはトランプ政権の選択肢は、(1)北朝鮮の出方次第で武力行使に出る、(2)米朝対話の窓を開く、(3)何もしないの三つだ」。当面、何もしなくても核・ミサイル開発がこれ以上進めば、(1)と同じ結論になりかねない。

トランプ大統領は首脳会談直後の共同記者会見で「北の核・ミサイル脅威は優先順位が非常に高い」と「very」を2回使って強調した。切り札を切るのは、ともに予測不能の米国、北朝鮮、どちらの指導者だろうか。

(半田滋・『東京新聞』論説兼編集委員、2月17日号)

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