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電通のブラック企業体質に強制捜査――遺族の悲痛な叫びに応えよ

2016年11月28日10:28AM

4半世紀の間に少なくとも3人の過労死者を出し、労基法違反で再三の是正勧告を受けながら放置し続けた巨大広告代理店・電通に、ついに捜査のメスが入った。

入社9カ月目の電通社員・高橋まつりさん(当時24歳)が過労により自殺していたことが明かされた遺族会見(10月7日)からちょうど1カ月となる11月7日、厚生労働省が電通の東京本社と3支社に対し、同省・過重労働撲滅特別対策班(通称・かとく)メンバーなど総勢88人を動員しての、強制捜査に踏み切ったのだ。

報道によれば、東京労働局などでは10月14日以降、電通の各事業所や主要子会社に任意の立ち入り調査を実施。この調査結果から、電通が各地の労働基準監督署に届け出た時間外労働の上限を超え、従業員を違法に働かせていた疑いが強まっていた。今後は押収した労務管理のデータや賃金台帳などの資料をもとに、違法な長時間労働を放置した会社側の責任を解明。さらに刑事事件としての立件も視野に、幹部社員の事情聴取が行なわれる見込みだという。

まつりさん遺族の会見をきっかけとして電通の「ブラック」ぶりは、この日までに続々と明らかになっていた。

10月20日には、2013年6月に病気で亡くなった東京本社勤務の若手男性社員のケースが、今年に入り長時間労働による労災と認定されていたと各紙が報道。さらに一昨年と昨年にも、大阪の関西支社と本社で社員に違法な長時間労働をさせていたとして、労基署から是正勧告を受けていたこともわかった。

そもそも電通は25年前の1991年8月、入社2年目の社員・大嶋一郎さん(当時24歳)を長時間労働の末に自殺に追いやった「電通事件」の当事者だ。過労自殺における会社側の安全配慮義務を明確化したこの歴史的事件を引き起こした同社で、かくも無法がのさばっているとあっては、さすがの厚労省も座視できなかったのだろう。

【「鬼十則」の社風 命よりも業績を優先】

強制捜査開始から2日後の9日には、厚生労働省が過労死防止月間となる今月、全国各地で開催している「過労死等防止対策推進シンポジウム」の中央集会が東京・内幸町で行なわれ、亡くなったまつりさんの母親である高橋幸美さんと、その代理人を務めている川人博弁護士も登壇した。

川人弁護士によれば、まつりさんの労働時間は本採用となった10月頃から深夜勤務・休日勤務が常態化し、睡眠時間が非常に少ない状態が続いていた。入退館記録を元にした彼女の終業時間は、この頃、夜10時、12時を過ぎることが当たり前のようになっており、10月26日などは始業時間が「6時5分」、終業時間「38時44分」と記録されていることから、30時間以上、会社から一歩も出ずに働いていたことが裏付けられるという。母親・幸美さんによれば、亡くなる1カ月前となる11月には、25年前の大嶋さんの記事を見せ、「こうなりそう」と話したこともあったという。

この日の約10分間のスピーチの中で幸美さんは、4代目吉田秀雄社長が1951年につくった電通「鬼十則」(社訓)の1カ条「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは」を引用しつつ、「社員の命を犠牲にして業績を伸ばして、日本の発展をリードする優良企業と言えるでしょうか」と電通の姿勢を糾弾。さらに「残業時間の削減を発令するだけでなく、根本からパワハラを許さない企業風土や業務の改善をしてもらいたい」とし、残業隠しの再発を防ぐための対策としての、「ワークシェアや36協定の改革、インターバル制度の導入」といった具体案にも言及した。

幸美さんは政府に対しても、「国民の命を犠牲にした経済成長第一主義ではなく、国民の大切な命を守る日本にしてほしい」と訴えている。この悲痛な叫びに電通と国が本当に応えられるのか、国民からは、かつてなく厳しい目が注がれている。

(古川琢也・フリーライター、11月18日号)

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