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自治体が住民税の税額通知書に記載、違憲の指摘も――知らずに勤務先へ個人番号

2016年11月1日6:23PM

来年の事業者向け住民税額通知書。従業員の個人番号欄が設けられる。(撮影/小石勝朗)

来年の事業者向け住民税額通知書。従業員の個人番号欄が設けられる。(撮影/小石勝朗)

企業や団体の従業員のうち住民税を天引き(特別徴収)されている全員の個人番号(マイナンバー)が、居住する市区町村から勝手に勤務先に「通知」されることが明らかになった。個人番号の提示を拒否している人の分も含まれる。本人の知らないところで個人番号が官から民に渡されることになり、憲法違反との指摘が出ている。

企業(事業者)は今年1年分の給与支払報告書を、来年1月末までに従業員が住む各市区町村に提出する。これを受けて市区町村は5月に、6月分以降の1年間の給与から天引きする住民税額を企業と従業員に通知する。そのうちの企業向け通知書に、従業員一人ひとりの個人番号欄が設けられる。

マイナンバー制度の運用開始に伴って、総務省が来年から地方税法施行規則で定める税額通知書の様式を変えるためだ。総務省は「多くの自治体から通知書を受け取る企業の利便性を考えて統一したい」として、この様式を使うよう市区町村を指導している。

税理士法人東京南部会計(大田区)が9~10月に東京23区に調査したところ、回答のあった21区のうち、検討中とした3区以外の18区が税額通知書に個人番号を記載する方針を示した。

同法人の佐伯正隆代表(税理士)らが特に問題視するのは、個人番号を提示しなかった従業員の分や、個人番号を収集していない企業の従業員の分も、市区町村が住基ネットで調べて記載する点だ。

「個人番号を収集する際には利用目的を本人に通知することが法律で定められていますが、この手続きを経ずに番号が勤務先に渡ることになりかねません。しかも従業員には、実際に自分の個人番号が勤務先に渡ったかどうかを知る術もありません」

浦野広明・立正大学客員教授(税法)は「従業員は勤務先への個人番号の提示を強制されず、本人の承諾を得ないまま個人番号を通知するのは、たとえ自治体であってもプライバシー権の侵害にあたり、憲法13条に違反する」と批判する。

個人番号を送り付けられる企業にとっても、管理の負担が増すことになる。佐伯代表によると、小規模・零細企業には個人番号を厳格に管理するだけの人員や費用、設備の余裕がないところが多い。管理しきれないと判断し、あえて従業員の個人番号を収集しない企業もあるのに、態勢を確認しないまま番号を知らせれば漏洩や流出の危険が増すだけという。

管理態勢を整えている企業であっても、郵送で来る税額通知書をマイナンバーの取扱担当者ではない社員が開封して個人番号を目にしてしまう可能性は高い。

【自治体の負担膨大に】

市区町村の負担はより深刻だ。

総務省は税額通知書を従来通り普通郵便で送ることを認めており、紛失した場合の影響が懸念される。23区調査では6区が「簡易書留で送る」と回答したが、そうなると1通310円が余計にかかる。たとえば人口89万人の世田谷区は約8万通を発送しており、約2500万円の負担増になることもあって変更は難しいという。

「通知書の個人番号の部分に目隠しシールを貼る」といった対策を検討する区もあるが、その手間と経費は馬鹿にならず、「5月中に通知書を届けきれないかもしれない」との不安も漏れる。行政の効率化というマイナンバー制度の大きな狙いに明らかに逆行する事態と言える。

都内の市区町村の税務課長会は総務省に対し、当面は税額通知書に個人番号を記載しないことを認めるよう要望している。

総務省は「税分野が対象のマイナンバー制度を利用して事務を正確・円滑に進めるために、通知書の様式を改正した。収集しきれない個人番号については、税務当局と企業で共有することが、その目的にかなう。企業の管理態勢は整えてもらうしかない。通知書は電子データでも送信できるので、市区町村は活用してほしい」(市町村税課)と説明。通知書の様式や運用を見直すつもりはないとしており、混乱も予想される。

(小石勝朗・ジャーナリスト、10月21日号)

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