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さらなる改悪も考えられる盗聴法大改悪――大幅裁量認め警察濫用の恐れ

2016年5月30日12:13PM

安倍晋三内閣は、1999年に多くの国民の反対を押し切って成立した盗聴法(通信傍受法)の大改悪を狙っている。すでに改悪法案が、刑事訴訟法改正案等と一本化されて参議院法務委員会で審議されているが、現在の盗聴法は、対象犯罪が(1)薬物(2)組織的殺人(3)密航(4)銃器の四つに限定されている。ところが政府が提出している改正案では、対象を一般刑法犯罪、窃盗や詐欺・傷害にも広げている。しかも、組織犯罪集団に限定するという縛りもない。

本来、国民のプライバシーや人権を公権力が侵す可能性のある盗聴は、対象犯罪を厳格に限定すべきだ。今回、もし改正が必要であったとしても、「オレオレ・振り込め詐欺」など組織的特殊詐欺を新たに五つめの対象犯罪に加えるだけで十分だったはずだ。ところがこの改正案では警察の大幅な裁量を認め、一挙に盗聴制度の濫用をもたらす恐れがきわめて強い。さらに法案では、盗聴に当たっての通信事業者の立ち合い義務が事実上廃止される。本来、盗聴については厳格な第三者機関の監視が不可欠だが、業者の立ち合いすら不要にされ、警察施設内で警察だけの盗聴が可能となる。

そもそも警察は、80年代に起きた日本共産党の緒方靖夫国際部長(当時)宅の電話盗聴事件すら、いまだに認めてもいなければ謝罪もしていない。そうした警察に盗聴のフリーハンドを与えたら、どうなるだろうか。警察は、続いて今秋にも、二人以上の者が具体的な「行為」に及ばないのに、犯罪を行なうことを話し合って「合意」したと見なされるだけで処罰対象とする、共謀罪の新設を狙っている。その際、警察が建物内に侵入し、盗聴器を仕掛ける「室内盗聴」も同時に合法化しようとする動きに出るのは間違いない。「共謀」が、電話・メールでのやり取りで行なわれるケースが多いからで、今回の大改悪が、さらなる改悪を招きかねない。

【日弁連「可視化」と取引か】

こうした事態に追い込まれた理由としては、以前は盗聴法成立時に反対していた日本弁護士連合会(日弁連)が、政府案に賛成の立場に転じた点が大きい。民進党も、こうした動きに引きずられた形だ。かつて日弁連は、盗聴法に反対していた。だが今や、冤罪防止のために警察・検察による取り調べの全過程の可視化実現が最優先されるべきとし、刑事訴訟法改正案には対象は限られるが、それが盛り込まれているとして、同法案を可決させるためには一本化されている盗聴法改正案も賛成する、という立場に転じた。だが、全過程が可視化されていなければいかなる供述調書も証拠採用しないという規定は、今回の法案に何ら盛り込まれていない。また法案は、栃木県の今市事件で示されたように部分可視化を利用し、違法捜査を隠蔽するやり方を認め、固定しかねない。この事件では、被疑者はまず商標法違反容疑で逮捕され、起訴されている。警察は起訴後に別件での勾留を利用して、殺人事件の取り調べを3カ月半もの間、事件を立件することなく継続した。これ自体、明らかに違法捜査だが、法案では商標法違反のような裁判員裁判対象ではない事件は、そもそも可視化義務がない。

しかも法務省の林眞琴刑事局長は4月14日、参議院法務委員会で、起訴後に勾留された被告人の別件起訴後の取り調べは任意捜査なので、録音・録画義務はないと答弁した。つまり今市事件のような違法捜査を是認し、この法案が成立した後も、警察は同じやり方をすると宣言したに等しい。

答弁について「起訴後も身体拘束下にあるから録音・録画義務はある」と解釈を改めさせることもなく、附帯決議でこうしたやり方に縛りをかけることもせず、全面可視化にはほど遠い法案を可決させるために盗聴法の大改悪を認めるという日弁連の姿勢は、どう考えても納得できるものではないだろう。このままでは警察による盗聴が野放しになり、可視化が逆に冤罪製造の手段に使われかねない。(談)

(海渡雄一・弁護士、5月20日号)

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