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衆参3分の2めぐり護憲と改憲の綱引き続く――憲法集会は参院選への危機感

2016年5月23日11:13AM

左から岡田克也(民進)、志位和夫(共産)、吉田忠智(社民)、小沢一郎(生活)の各氏。(撮影/林克明)

左から岡田克也(民進)、志位和夫(共産)、吉田忠智(社民)、小沢一郎(生活)の各氏。(撮影/林克明)

5月1日発表の『朝日新聞』世論調査によると、「憲法を変える必要はない」が昨年に比べ48%から55%へ、「9条を変えない方がよい」は63%から68%に増えた。他の調査でも同じ傾向で、安倍晋三首相が声高に改憲を主張するほど反対世論が高まっている。

5月3日の憲法記念日は、千葉県松戸市で山田洋次監督の講演、北海道北見市や静岡県藤枝市では自民党改憲草案に絞った催しなど、活発な護憲集会が行なわれた。翌日以降も兵庫県伊丹市で「戦争法は廃止! 憲法改悪を許さない1000人集会」(主催:同実行委員会)が開かれるなど、日本列島各地でイベントが相次いだ。

規模が最大だったのは、東京・江東区の東京臨海広域防災公園で行なわれた集会「明日を決めるのは私たち 平和といのちと人権を!」(主催:5・3憲法集会実行委員会)だ。開始1時間前には、最寄駅のホーム、エスカレーター、改札口付近から駅前広場、集会場まで人が連なっていた。主催者によると5万人が集まったという。

集会の冒頭、「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」の高田健氏は、「昨年の安保法制反対運動は、『政治文化を変えた』『新しい市民革命』と評する識者もいる。今日の集会を契機に2016年安保闘争を起こし、戦争法発動を止めよう」と開会を宣言した。なお、集会主催者らによる「戦争法の廃止を求める2000万人統一署名」は、現在、1200万筆を超えている。

101歳のジャーナリスト・むのたけじ氏は車椅子で登壇し、従軍記者として戦争を海外と国内で見た体験から、こう訴えた。

「従軍記者も兵隊と同じ神経になる。相手を殺さなければこちらが死んでしまう。道徳を維持できるのは、せいぜい3日間。食糧を奪い、女性を襲い、証拠隠滅のために火をつける。これが戦争の実態。

その結果、憲法9条という希望を得たのだ。それ以来、一人の戦死者も出さず他国の人を殺してもいない。これまで歩んできた道は間違ってない。この集会を見ても多くの女性が立ち上がっている。この場から新しい歴史が湧き上がっている」

集会にはさまざまな立場の人々が集まり、朝鮮高校の生徒たちも参加した。高校無償化から朝鮮高校だけが排除されたままで、政府が地方自治体に朝鮮学校への補助金を停止するように圧力をかけている。女子生徒は「北朝鮮が核実験をしたりするたびに私たちがヘイト・スピーチを受ける。でも、それに負けない強い人間になりたい」と決意を語った。

自民党改憲草案の特徴は、基本的人権の制限だ。最も被害を受けるのは在日をはじめマイノリティーの人々。彼らにとって憲法問題は目が離せないだろう。

【選挙の焦点は憲法問題】

今年の憲法集会が盛り上がったのは、7月の参院選の焦点が憲法問題だからだ。神奈川県座間市からやってきた元高校教諭の男性は、「安倍政治の正体がだんだんわかってきたから、多くの人が参加するのだと思う。夏の参院選挙で自公が勝てば、なんでもやってくるのでは?」と危機感を募らせる。

同集会には、岡田克也・民進党代表、志位和夫・日本共産党委員長、吉田忠智・社民党党首、小沢一郎・生活の党と山本太郎となかまたち共同代表が駆けつけ、憲法擁護と野党共闘で安倍政権打倒のために努力することを明言した。

4月24日投開票の衆院北海道5区補選は自民党公認候補が当選したが、従来なら与党が圧勝するはずのところ、「接戦にもちこみ、無党派層の7~8割が池田真紀さん(4野党統一候補)を支持したように野党共闘の成果が確実に出ている」(山口二郎・法政大学教授)という指摘は重要だ。

参院選32の1人区のうち21選挙区で野党共闘の合意ができており、共闘がどこまで進むかで命運が決まるだろう。

(林克明・ジャーナリスト)

【若手弁護士が寸劇で訴え】

5月5日、兵庫県姫路市の「憲法を守るはりま集会」では、「災害を口実にした緊急事態条項の憲法への創設は、独裁への道。きわめて危険」と、危機感に燃える若手弁護士たちが、寸劇「憲法が昏睡るまで」を、本邦初公演し、市民にアピールした。

演じたのは、明日の自由を守る若手弁護士の会(あすわか)兵庫支部の面々。3年ほど前から、まずは楽しく憲法を知ってもらおうと、「知憲」活動の一環として、有志で「劇団あすわか・ひょうご」を結成、市民の集いなどへの〝出前公演”を重ねてきた。専門知識を活かし、「憲法ができるまで」を皮切りに、これまでに3本の作品を発表。脚本・演出から記録まで、すべてを自前で賄うのが特徴で、熱意と集中力で軌道に乗せてきた。

第4作目発表のこの日、登場した若手弁護士は、語り手や映像スタッフなども含めて、20人。“災害対策のプロ”と言われるベテラン弁護士も駆けつけて、舞台を見守るなど、厚い応援体制に支えられている。

今回の「憲法が昏睡るまで」は、自民党改憲草案とQ&Aがベース。災害やテロを口実にして国民の不安を煽りたて、憲法に創設した「緊急事態」条項を使って権力を内閣に集中させ、憲法を停止して国民の人権を制限する策動とそれに抗する人々の闘いを描く。30年後の近未来から2016年、さらには1955年まで戻って、改憲狙いの流れを描き出す「タイムワープ」の手法も駆使している。

今後、参院選までには、6月ごろ関西の法曹関係者の集まりで上演するほか、秋には日弁連のシンポジウムや各地弁護士会の催しでも、公演が決まっている。

(たどころあきはる・ジャーナリスト)

【公明、民進党に秋波】

一方、改憲をめざす「新憲法制定議員同盟(会長・中曽根康弘元首相)」が、5月2日、東京・永田町の憲政記念館で開催した「新しい憲法を制定する推進大会」には、主催者発表で約1300人が参加した(サテライト会場含む)。

最初に97歳の中曽根氏が、「グローバル化の中で日本民族が民族たる意味を示し得るかどうかが、従前に増し大きく問われている」、「安倍内閣は憲法改正実現に取り組もうと挑戦。我々は大いに評価・支持し期待する。ただ世論は、改正の必要性は受け入れつつ躊躇もあり、依然、壁の厚さがある」と演説。

次に、自民党の小坂憲次元文部科学相は「憲法改正の国民投票で過半数の賛成を得られるよう、項目・条文を提示し発議させて頂く」と述べた。これは中山恭子参院議員(日本のこころを大切にする党)の「一括改正すべきだが、難しいなら緊急事態条項だけでもまず改正するのも一つの手だ」という発言と符合。賛同を得やすい“お試し”改憲から、という主張だ。

民進党の松原仁衆院議員は、(1)拉致をした北朝鮮に対し憲法前文の「われらの安全」を委ねられない、(2)愛国心をいかに書き込むかは極めて重要、などの理由を挙げ、「この憲法は改正されなければいけないと確信している。党内で同憂の士を募り頑張る」と語った。

公明党の斉藤鉄夫衆院議員は「衆参3分の2を得るため与党だけではなく、野党第1党も一緒に合意するという幅広い国民合意を作ることが大切ではないか。国民分断の国民投票にしてはならない」と、民進党の取り込みを主張。「先日、私の部屋を訪れた米国籍の高齢者に『日本国籍を取り、国民投票してから死にたい。生きてるうちに頼む』と言われ涙が出た」というエピソードも紹介した。「加憲」と言いつつ、改憲にノリノリだ。

この他、おおさか維新の会の江口克彦参院議員や経団連の小畑良晴・経済基盤本部長も登壇した。

(永野厚男・教育ジャーナリスト、5月13日号)

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