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東京都が4校の定時制課程廃止を打ち出す――「生徒や卒業生の声を聞いて」

2016年3月7日1:48PM

小山台高校定時制では日本語が不自由な生徒に少人数の「取り出し授業」を行なっている。(2月19日、撮影/永尾俊彦)

小山台高校定時制では日本語が不自由な生徒に少人数の「取り出し授業」を行なっている。(2月19日、撮影/永尾俊彦)

東京都教育委員会は、2月12日の定例会で、都立高校4校の定時制廃止を含む都立高校改革の新実施計画を決めた。

廃止されるのは、小山台(品川区・昨年5月1日現在の生徒数154人)、雪谷(大田区・同41人)、江北(足立区・同180人)、立川(立川市・同301人)だ。生徒募集をやめるのは早ければ2018年度からになる。

廃止の理由は、(1)正規雇用で働きながら学ぶ生徒は1965年度の88・3%から15年度は3・3%にまで減っている(2)募集人員に対する在籍生徒の割合が年々低下し、15年度は68・6%にとどまっている一方、小中学校時代に不登校を経験した生徒などを受け入れるチャレンジスクール(単位制・三部制)の応募倍率は15年度は1・66倍、昼夜間定時制高校(単位制・昼夜間多部制)が1・77倍で入学希望に十分応えられていない(3)全日制と定時制併置校には施設の共用による時間制約があり、双方共に十分な指導時間が確保できない、などだ。

そこで、4校の定時制廃止のかわりに、チャレンジスクールを2校増やし、チャレンジスクール4校と昼夜間定時制3校で学級数を増やすとしている。

この点について、舛添要一東京都知事は2月12日の記者会見で、「受け皿はちゃんと作った上で新たなニーズにも対応していきたい」と述べた。

都教育庁は新実施計画について昨年11月から1カ月間都民の意見を募集したが、寄せられた252件のうち175件が定時制廃止に関する意見で172件が廃止反対、賛成は3件だけだった。

元都立高校教師で「都立高校のいまを考える全都連絡会」の佐藤洋史さんは、「チャレンジスクールを増やしたり、昼夜間定時制の学級増は反対ではありません。しかし、たとえば立川高校の定時制は定員を超えており、人気がある。小山台も駅前で便利。なぜ廃止するのがこの4校なのか」と話す。

この点を教育庁に聞くと、「周辺の定時制が何人受け入れられるかや交通の便など総合的に考えた結果」という以上の答えはなかった。

定時制があると全日制は夕方5時半には下校しなければならない。小山台、立川、江北、雪谷の全日制は進学やスポーツで都が支援する指定校になっている。だから、「定時制をなくせば、全日制は存分に補習や部活の時間がとれるようになり、進学やスポーツの成績をあげるのが本当のねらいでは」と佐藤さんは推測する。

【反対の請願、都議会で審議】

また、すでに閉じられた両国高校定時制出身のカメラマン・石川文洋さんも、「定時制で生涯で最も親しい友人ができ、結束は固いです。今の定時制の生徒も不登校経験などで連帯感があるようですね。そういう場を生徒が少ないから効率が悪いと切り捨てチャレンジスクールなどにして生徒を増やすと、きめ細かい教育ができず、いじめにつながるのでは」と心配する。

最近の定時制には外国にルーツを持つ生徒が増えており、日本語が不自由な生徒の「取り出し授業」という少人数のきめ細かい授業を設けている学校も少なくない。

アジアの国出身で小山台の定時制で学んだ卒業生は、「先生たちに支えられて日本語がしゃべれるようになり、私の人生に新しい道を開いてくれました」と感謝する。そして、定時制の廃止について「(都教委は)自分たちだけで決めないで、生徒や卒業生、保護者の声を聞いてほしい」と訴えた。

小山台定時制は、文部科学省や都教委の人権教育の推進校であり、大学やNPOなどと連携し、多文化共生や外国人差別を考える授業などに取り組んできた。同定時制関係者は、「都教委が選んだ指定校なのに、都教委が潰すのはおかしい。定時制は、貧困と格差の連鎖を断ち切る一番大切な部分です。そこを大切にすることは都立高校すべての生徒を大切にすることにつながります」と話した。

都民から4校定時制廃止反対の請願が出されており、3月16日の都議会文教委員会で審議される。

(永尾俊彦・ルポライター、2月26日号)

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