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「性奴隷」説を嫌う政府と合致――吉見教授の訴え棄却

2016年2月9日10:39AM

日本軍「慰安婦」問題の研究者として知られる中央大学の吉見義明教授が、自著を「捏造」などと誹謗した日本維新の会(当時)の桜内文城前衆議院議員を名誉毀損で訴えた裁判で、東京地裁(原克也裁判長)は1月20日、同議員の発言は「意見ないし論評の域」として原告の請求を棄却した。

この裁判は2013年5月、「慰安婦制度が必要なことは誰でもわかる」などと発言して批判を浴びた橋下徹大阪市長(当時)が日本外国特派員協会で講演した際、同席した桜内前議員が吉見教授の著作について、「すでに捏造であるということが、いろんな証拠によって明らかにされています」と発言。吉見教授が、「研究者の業績を捏造と公言するのは、重大な名誉毀損」と同年7月に提訴したもの。

原裁判長は判決で、桜内前議員の発言は「原告の社会的評価を低下させる名誉毀損に該当する」と断定。その一方で「捏造」の意味を「誤りである」「不適当だ」等の意味に限定した上で、その発言には「違法性はない」と結論付けるという、矛盾した論理構成だ。

公判で桜内前議員は、発言前に吉見教授の著書を読んでいない事実を認めながら、教授の日本軍「慰安婦」を「性奴隷」とする研究内容が「捏造」だと主張。そのため裁判では、日本軍「慰安婦」=「性奴隷」論の是非が争点化した。

判決はこの点に触れていないが、問題は政府が「慰安婦」問題の責任を認めながら、「性奴隷」と見なすのを拒否している点。原裁判長は最高裁人事局付の同地裁判事補や検事も歴任し、「経歴からしても典型的な最高裁=国寄りの裁判官」(元裁判官)だ。「性奴隷」説は政府にとって目障りな存在であるのは間違いなく、教授の名誉救済を退けた今回の判決も、そうした政府の姿勢と無縁ではないだろう。

(成澤宗男・編集部、1月29日号)

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