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蓮池透氏が拉致問題の内幕書で批判――暴露された安倍首相の「ウソ」

2016年2月2日10:49AM

昨年12月に出版された蓮池透氏の『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)。

昨年12月に出版された蓮池透氏の『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)。

「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」元副代表の蓮池透氏が出版した『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)が、話題になっている。

1月12日に開かれた衆議院予算委員会では、民主党の緒方林太郎議員が同書を取り上げ、「今まで拉致問題はこれでもかというほど政治的に利用されてきた。その典型例は実は安倍首相によるものである」という一節を読み上げて、「首相は拉致を使ってのし上がった男でしょうか」と質した。

これに対し、安倍首相は声を荒げて「ここで私の名誉を傷つけようとしている。極めて私は不愉快ですよ」と反論したが、同じパターンが以前もあった。2006年10月11日の参議院予算委員会で、民主党の森ゆうこ議員(当時)が、同年発売された『週刊現代』10月21日号掲載の、「安倍晋三は拉致問題を食いものにしている」という表題の記事を取り上げたのだ。

この記事は、中国朝鮮族の実業家で、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が他国と交渉する際の「大物ロビイスト」とされた崔秀鎮氏のインタビュー。崔氏は安倍首相から北朝鮮との秘密交渉を依頼されたというが、そこで首相について「単に政治的パフォーマンスとして拉致問題及び北朝鮮問題を利用しているにすぎないのです」と述べている。

森議員が「この記事の事実関係」を質しただけで、首相は「一々コメントするつもりはまったくありません。事実、食い物にしてきたということをこの委員会で言うのは失礼じゃありませんか」と、興奮した口調で発言している。

今回、蓮池氏が同書で首相の「ウソ」として取り上げている主な点は、以下の二つだ。

(1)2002年9月に小泉純一郎首相(当時)が訪朝した際、官房副長官として同行した安倍氏が、「『拉致問題で金正日から謝罪と経緯の報告がなければ共同宣言に調印せずに席を立つべき』と自分が(注=小泉首相に)進言した」。(2)蓮池氏の実弟の薫氏が同年10月に「一時帰国」した際、安倍氏が「帰国した被害者5人を、北朝鮮に戻さないように体を張って必死に止めた」というもの。

【首相の拉致問題の「政治利用」】

蓮池氏は同書で(1)について、「席を立つべき」という方針は安倍氏が言い出したのではなく、当時の政府の共通認識だった。(2)については、安倍氏は北朝鮮に戻ることに当初反対しておらず、5人の帰国を引き止めたのは蓮池氏自身だったと指摘。だが安倍首相は、緒方議員が「蓮池氏がウソをついているのか」と迫ったが、「(自説が)違っていたら国会議員を辞める」と反論した。

これについて、拉致問題が安倍首相や右派によって「政治利用」されてきた経過を追った『ルポ 拉致と人々』(岩波書店)の著者で、今回の蓮池氏の近刊にも著者との対談が掲載されているジャーナリストの青木理氏は、「おおむね、蓮池氏の指摘が正しい」と断言する。特に(1)については、小泉政権時代の田中均元外務審議官のインタビューで裏付けを取っており、「安倍首相だけが一人、独自の主張をしていたのではない」と述べる。

また青木氏は、「首相は副官房長官当時、周囲の“番記者”にペラペラと拉致に関する情報を話していました。拉致問題を最大の跳躍台にして駆け上がり、首相の座まで射止めたのは間違いない」と指摘。さらに、「実際首相がやったことは蓮池氏も指摘するように『北の脅威』を煽って制裁を強化するだけで、問題解決のために何もしてはいない」と述べる。

蓮池氏もツイッターで安倍首相の答弁に対し、「私は決して嘘は書いていません」と断言しているが、確かなのは首相はこれまで、さまざまな事実無根の発言を繰り返してきたという事実だ。福島第一原発事故後の汚染水流出について「アンダーコントロールにある」だの、日本軍「慰安婦」問題は「『朝日新聞』の誤報から始まった」だのと、上げればキリがない。首相が拉致問題についての言動を批判されると感情的になるのも、本人のやましさのためではないのか。

(成澤宗男・編集部、1月22日号)

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