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山形市長選、自民等推薦佐藤氏当選するも善戦の梅津氏――安保法案への反対票が理由か

2015年10月5日6:14PM

石破茂氏(手前右)らが連日応援したが薄氷の勝利だった佐藤孝弘氏(同左)。(9月12日、撮影/横田一)

石破茂氏(手前右)らが連日応援したが薄氷の勝利だった佐藤孝弘氏(同左)。(9月12日、撮影/横田一)

山形市長選(9月13日投開票)で元経産省職員の佐藤孝弘氏(自民・公明・次世代・改革推薦)が、元防衛省職員の梅津庸成氏(民主・共産・社民・生活推薦)と飲食店経営の五十嵐右二氏を破って初当選した。安保法案の参院審議が山場を迎える中の与野党激突選挙で、法案反対を訴えた梅津氏は5万4596票を獲得、佐藤氏との得票差は僅か1773票だった。県政ウォッチャーは「梅津氏の大善戦で安保法案反対の民意がはっきりと示された」と分析していた。

「山形県は全小選挙区を自民が独占、山形市が有権者の約3分の2の山形1区でも、遠藤利明五輪担当相が次点の民主党候補をダブルスコアで破っていた。しかし去年12月の総選挙から1年足らずの山形市長選で与野党系候補の得票がほぼ拮抗した。自民党が強い地域でも野党共闘で安保法案反対を訴えれば、互角の戦いができることを山形市長選は証明したのです」

実際、梅津氏不利の要素はいくつもあった。佐藤氏が前回市長選で惜敗した後に4年間かけて市内を回っていたのに比べ、梅津氏の出馬表明は5月末。準備期間は「48カ月対3カ月半」と大きく出遅れていたのだ。しかも前回は自主投票だった公明党が今回は佐藤氏を推薦したことも逆風となった。

政党の基礎票でも大差をつけられていた。投開票日に放送されたNHKの出口調査によると、自民支持は43%で公明は2%(自公合計で45%)に対し、野党合計は23%(民主支持は18%、共産と社民が各2%、維新が1%)。政党の基礎票でも2倍の違いがあったのだ。

また五輪担当相となった遠藤氏(県連会長)が連日のように佐藤氏と一緒に回り、中央とのパイプの太さを強調しながら企業・団体への締め付けも徹底。選挙戦最終日の12日には石破茂地方創生大臣が現地入りし、佐藤氏への支持を訴えた。自民党が強い地域で政権与党が“全力投球”してようやく僅差で逃げ切った――これが山形市長選の実態といえるのだ。

【鈍かった公明支持者の動き】

佐藤氏苦戦の理由もNHKの出口調査から読み取れた。自民支持者の2割強が梅津氏に流れていた。個人演説会で大内理加県議(自民党)は「支持者から『今回は安保法案があるので佐藤さんに入れられない』と言われた。自民支持者を固めきれていない」と嘆き、現地入りした石破氏について「安保法案に触れてほしかった」と不満をぶちまけた。佐藤陣営は「市長選と安保法制は関係がない」と一貫して訴えたが、実際には自民支持者が切り崩される要因となっていたのだ。

理由の二番目は、民主党と共産党ら4党が手を結ぶ野党共闘が実現、各党の基礎票をほぼ固めきったことだ。前回の総選挙では、山形1区に民主党と共産党が候補者を立て4万6029票と1万6577票に分散、遠藤氏(9万8508票)に大差をつけられたが、今回は両党の票が合算されて基礎票でかなり追いつくことになった。

三番目は、公明党支持者(創価学会員)の動きが鈍かったようにみえることだ。先の出口調査では「自民支持者43%」に対して「公明支持者は2%」と20分の1以下で、数千票程度に留まったとみられる。「梅津陣営は創価学会関係者に『動かないでほしい』と働きかけていた。これが安保法案に反対する学会員のサボタージュを招いたのでしょう」(地元事情通)。

最後は「支持政党なし(無党派層)」で梅津氏が佐藤氏を上回ったことだ。安保法案強行の安倍政権への反発の表れといえる。国会審議の潮目を変えた憲法学者の一人、小林節慶應義塾大学名誉教授は1週間近く現地に滞在、教え子の梅津氏支持を呼びかけていたのだ。

今回の山形市長選は、来年夏の参院選や次期総選挙のモデルケースになる。安保法制反対を旗印に野党共闘体制を作り、「自民支持者の切り崩し」や「公明党支持者への呼びかけ」や「無党派層への浸透」をしていけば、自公と互角の勝負ができることを示したからだ。小林氏提唱の「野党共闘による“護憲連立政権”誕生」の現実味が一気に増したといえるのだ。

(横田一・ジャーナリスト、9月18日号)

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