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住宅提供打ち切りの動きに反対や要望の声が高まる――避難者に路上生活の不安も

2015年6月8日5:49PM

県の担当者(右)に署名簿と要望書を提出する鴨下さんら=5月15日福島県庁。(撮影/藍原寛子)

県の担当者(右)に署名簿と要望書を提出する鴨下さんら=5月15日福島県庁。(撮影/藍原寛子)

安倍政権による原発震災の被災者や避難者に対する容赦ない支援・賠償の打ち切りが断行されそうだ。矛先が向けられているのは避難者で、最も重要な生活基盤である住宅の無償提供を打ち切り、帰還させる動きだ。「避難者の命がかかっている問題だ」「路上生活を考えろというのか」。避難者からは悲痛な叫びが上がる。

避難者への避難住宅の無償提供を定める災害救助法では、都道府県知事が国との協議の上、救助支援が適用される避難元対象地域を定めることができる。これまでに福島県は1年単位で無償提供延長(現在は2016年3月まで)を決めており、今後の方針は「国(内閣府、復興庁)と協議中」という。しかし協議の中身は明かされず、秘密の中で、避難者の命運が議論されている。

避難者の不安が高まるなか、5月15日、原発事故により都内や京都など全国に避難した避難者や支援者約10人が福島県庁を訪れ、避難者支援課に避難用住宅の無償提供の長期延長を求める4万4978筆の署名簿と要望書を提出した。いわき市から都内に避難した鴨下祐也さん(ひなん生活をまもる会)は「もしも福島に帰れるものなら帰りたいが、放射性物質に汚染された避難元には帰れない。長期の無償提供をお願いしたい」と訴えた。しかし県側は終始「現在、国と協議中」と回答するのみだった。

同20日には衆議院第一議員会館で避難者らによる集会が開かれた。いわき市から埼玉県に避難した河井加緒理さんは「(線量の高い)福島に戻る気持ちはない。住宅無償提供の打ち切りで出ていけということは、路上生活を考えるしかない」と語る。避難者の間では「突然、打ち切りの発表があって、避難生活を断念せざるを得なくなるのでは」という危機感がさらに高まっている。

【背景に国の帰還促進策】

災害救助法に詳しい山川幸生弁護士は、「避難元地域を定めて避難住宅提供などをする災害救助法と、避難区域を定める原子力災害対策特別措置法(原災法)はリンクしておらず、避難区域以外の避難者にも、仮設住宅の提供などの支援ができる。事故の責任者である国の責任で、放射線が高いために帰れずに避難している人々の支援を継続すべきだ。国連のグローバー勧告が指摘したように、被災者の健康がないがしろにされている問題がある」と指摘した上で「国際人権規約・社会権規約や、憲法13条に規定された人格権からも、自分の体や健康を守る権利により、被曝の影響を避けるために避難する権利や避難を継続する権利、さまざまな行動を取る権利は、当然認められるべきで、国はそれらの権利を制限することはできない。もし住宅の無償提供を打ち切れば、避難の手段を奪うことになり、避難者を力ずくで追いつめることになる」と批判する。

政府自民党は5月19日、居住制限・避難指示解除準備両区域の精神的賠償の支払いを約3年後の2018年3月までとする案を発表。避難者の意向も聞かず、帰還を加速させる案を押し付ける姿勢だ。

同26日には福島県川内村から岡山県に避難している大塚愛さん、南相馬市の避難勧奨地域から市内の別の地域に避難をしている小澤洋一さんなど、避難者や家族ら15人が福島県避難者支援課に対し、「原発事故の避難者の命綱である住宅無償提供の打ち切りをしないでほしい」と要望した。その後の記者会見で大塚さんは「住宅の無償提供は、避難の権利を認める唯一の政策。ぜひ継続し、避難した私たちを守ってほしい」と語った。緊急集会に参加した人からは「避難者を切り捨てるな」「まだ線量が高いところがある。強制帰還は反対」という声が上がった。

福島県からは約4万6000人がいまだに全国各地に避難している。福島市内の住民支援団体に聞くと「『今からでも避難できないか』という相談がある」という。被災者や避難者を追い詰め、なぎ倒していくブルドーザー政策が、今まさに進められようとしている。

(藍原寛子・ジャーナリスト、5月29日号)

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