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樋口裁判長、高浜原発運転差し止め仮処分決定の全国的影響――新規制基準は問題だらけ

2015年5月7日1:31PM

大飯・高浜原発差止仮処分弁護団の河合弘之弁護士(右)。17日、衆院第二議員会館で。(撮影/斉藤円華)

大飯・高浜原発差止仮処分弁護団の河合弘之弁護士(右)。17日、衆院第二議員会館で。(撮影/斉藤円華)

関西電力高浜原発(福井県大飯郡)3・4号機の運転差し止めを命じる福井地方裁判所(樋口英明裁判長)の仮処分決定(4月14日)をめぐり、早くも政府や関電の「反撃」が始まった。原子力規制委員会は田中俊一委員長が15日の会見で「事実誤認がある。誤ったことがいっぱい書いてある」と反論。また、安倍晋三首相も16日に衆院本会議で「再稼働を進めていく」と表明した。関電は17日、仮処分への不服申し立てを行なった。

しかし「(決定文要旨で、使用済み核燃料プールの)給水設備は耐震重要度分類でBクラスだと書いてあるが、Sクラスです」という田中委員長の発言は、決定書の論理に影響しない誤記を「事実誤認」と言っているにすぎない。

大飯・高浜原発差止仮処分弁護団ほかは17日、東京都内で仮処分決定の緊急報告集会を開催。この中で、出席した原子力規制庁の担当者は弁護団との質疑に応じて「使用済み核燃料プールの給水設備はSクラスが正しい」と説明した。

決定文の要旨ならびに本文では、確かに当該部分をBクラスと表記している。しかし、そもそも決定文が使用済み核燃料プールに言及したのは、同施設で冷却が失敗すれば、崩壊熱で使用済み核燃料が損傷して「死の灰」が大量に漏れ出す危険性が高まるためだ。

ところが現実には、決定文の本文42ページにある通り「使用済み核燃料プールの冷却設備は耐震クラスとしてはBクラス」に過ぎない。このため決定では、使用済み核燃料プールの脆弱性を解消する手立てを講じるよう関電に求めた。

つまり、普通に決定文を読み進めれば「給水」は「冷却」の誤記だと推測できる程度のミスとわかる。弁護団の海渡雄一弁護士は「(高浜原発運転差し止め訴訟の本訴での)関電の主張をなぞっても、ここでの問題が給水ではなく冷却であることはわかるはずだ」と規制庁を批判した。

【再稼働のハードル上げた】

今回の決定が画期的なのは、過去の判例の延長に運転差し止めを導き出した点だ。すなわち、四国電力伊方原発をめぐる1992年の最高裁判決では、原発が施設職員や周辺住民に重大な危害を万が一にも及ぼさないよう、十分に安全審査を行なうよう求めた。

決定は同判決に安全規制の根拠を見出した上で、基準地震動の設定が適切とは言えず、また基準地震動以下の揺れでも重大事故に繋がりうる点などを挙げて「(規制庁の)新規制基準は緩やかに過ぎる」としているのだ。

弁護団の河合弘之弁護士は決定の意義を次のように説明した。

「樋口裁判長は、原発再稼働を止めて、安全な国を後世に残すにはどうしたらいいかを考えたのだろう。それには高浜だけでなく全ての原発に当てはまる、一般的で水平展開可能な論理が必要だ。

そこで新規制基準に着目した所、『ここもいい加減、あそこもいい加減』と問題点が見つかった。その意味で本決定は、高浜を止めた以上に、今後の再稼働手続きに強力な制止をかけた点で重要だ」

つまり、今後の司法判断が再稼働を認めるとすれば、それは原発稼働による人格権侵害を認めた昨年5月の福井地裁判決、そして新規制基準の盲点を突く今回の決定を覆すだけの論証を行なうか、または意図的に無視するしかない。

「東通と女川を除く国内すべての原発で差し止め裁判が行なわれている。(今回の決定は)こうすれば勝てる、と他の裁判官に勇気を与えると思う」と河合弁護士。規制委や政府が細かなミスを「鬼の首を取る」ように言わざるを得ないのは、それだけ司法判断のハードルが上がった表れとも言える。

今回、関電は樋口裁判長らに対して裁判官忌避の申し立てを行なったが、樋口氏は裁判所法第28条の規定に従い職務代行許可を名古屋高裁から取得。弁護団の中野宏典弁護士は会見で筆者の質問に「再稼働が迫っているという緊急の必要があり、裁判官が変わって一から審理していたらとても間に合わないとの(樋口氏の)判断があったのではないか」と話した。

(斉藤円華・ジャーナリスト、4月24日号)

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