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総聯議長・副議長宅の家宅捜索で証拠物ゼロは想定内か――拉致問題で安倍首相が脅し

拉致被害者家族の前で「拉致問題は私の内閣で解決する」と繰り返し公約した安倍晋三首相が、ついに国家権力を発動した。3月26日早朝、在日本朝鮮人総聯合会(以下、総聯)の許宗萬議長と南昇祐副議長の自宅に京都府警、島根・神奈川・山口県警の合同捜査本部の装甲車や捜査ヘリまで動員して家宅捜索に踏み込むという、暴挙というよりは脅しに出たのだ。

この日の家宅捜索容疑は2010年9月、貿易会社東方(東京都台東区、李東徹社長)が北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)産のマツタケ1200㎏を中国産と偽って輸入した外為法違反事件に、総聯の許議長と南副議長が関与しているという容疑をかけて突如踏み込んだ。こじつけのガサ入れだけに、押収した証拠物はまったくなし。許議長宅に踏み込んだ捜査員はわざわざ自分のバッグを入れていかにも押収物があったかのように持ち帰っている。この事件では昨年5月にも今回よりも大規模な摘発捜査で許議長の息子の自宅も捜査対象になったが、その頃から警視庁筋からは「議長逮捕が狙い」という観測情報は流れていた。今回も「何も出ないのを承知でやっている」と警視庁の外事関係者。

捜査当局が大挙したこの家宅捜索劇を外務省担当の記者は「脅しですよ。北朝鮮本国に対して拉致被害者情報を出さないとこうなるという脅しですよ」と説明した。さらに「安倍は北側と交渉している外務省の伊原(伊原純一アジア大洋州局長)がなんの成果も出していないことが相当に頭にきて呼びつけて激怒」した結果、官邸、外務省、拉致問題対策本部が脅しに合意したというのだ。また、ある情報筋によると、家宅捜索に及んだ3月26日以前に、北朝鮮から日本政府に対して、拉致被害者情報を外した特別調査委員会調査報告書提出の打診があった。安倍首相はこれにも激怒、一転、脅しに転じたというのだ。なるほど合点がいく説明だ。

26日、ガサ入れを受けた許議長は捜査員同様に大挙して押し寄せたマスコミを前に激しく抗議した。「無法、奇襲的、異様な、非人間的な、政治的弾圧の暴挙」であり「このデタラメ捜査を許可した官邸にすべての責任がある。私は徹底的に戦う」し「拉致を解決させる意思がないのは日本当局である」と激高が続いた。4月1日行なわれた「警察当局の朝鮮総聯議長・副議長宅に対する不当極まりない強制捜索の暴挙を断罪・糾弾する在日朝鮮人緊急集会」で渡辺博弁護士は「今回の議長宅、副議長宅への捜索差押はマツタケの不正輸入という名目で行なわれましたが、実際は、朝鮮総聯や議長、副議長が犯罪に関与しているという印象を作り上げるために公安警察が行なったイベントにすぎません。これは重大な人権侵害です」と、国家権力のイベントだと指摘した。当然のように、北朝鮮本国は「調査拒否」を通知してきた。

【首相の焦りのあらわれ】

多くの識者が指摘しているように、今回の家宅捜索の背後には「拉致問題を解決すると公約した」安倍首相の焦りが見え隠れする。以前の安倍首相は「対話と圧力」をモットーにしていたはずだが最近は「行動対行動」とか「圧力対圧力」を連発するようになった。安倍首相には拉致問題しか眼中にないようだ。昨年5月の日朝局長級会談でまとまったストックホルム合意の〈すべての日本人調査〉から〈最優先するのは拉致被害者情報〉と勝手に方向先を変えたのも安倍首相である。前述の外務省担当記者は「官邸には、脅して圧力をかければ北は折れてくるという錯覚がある」と図星のポイントを語ったが、その錯覚の持ち主こそ安倍首相だろう。

4月3日、安倍首相は拉致被害者家族会と面会した。「安倍政権にとって拉致問題の解決は最重要課題だ。その方針で6年間、北朝鮮との交渉に当たってきている。縷々困難な問題があろうとも被害者の方々と家族の皆様が抱き合う日がやってくるまで、我々の使命は終わらない」と不思議な決意表明に終わった。

拉致問題解決にはタフな交渉力を持つ人物が必要だ。

(成田俊一・ジャーナリスト、4月10日号)