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諫早湾、排水門の開門まで国の「制裁金」確定――最高裁、農水省の抗告を棄却

諫早湾で被害を受けつつノリ漁を営む篠塚光信・美恵子夫妻。2014年12月19日。(撮影/永尾俊彦)

諫早湾で被害を受けつつノリ漁を営む篠塚光信・美恵子夫妻。2014年12月19日。(撮影/永尾俊彦)

「(農林水産省は)ホント、自分たちの体面だけですたい。漁民と農民を巻き込んで対立させ、紛争みたいにしとる」――こう批判するのは、長崎県島原市でノリ漁を営む篠塚光信さんだ。現地のノリ漁は近年、芽流れや色落ちなどの深刻な被害を受けている。「原因が諫早湾干拓だとわかるから、農水省は開門できんのやろう」(篠塚さん)。

九州・有明海の諫早湾干拓事業をめぐっては、漁業者側と営農者側が双方向から国に対する制裁金支払いを福岡高裁に申し立て、両者ともに認められている。農水省が潮受堤防排水門を、開門しない場合は漁業者らに対して、開門する場合は営農者らに対して一定額、支払うというものだ。

農水省はこの二つの高裁決定に抗告していたが、最高裁第二小法廷(千葉勝美裁判長)は1月22日、抗告を棄却した。「当事者が異なり、別個に審理された裁判の判断がわかれることは制度上ありうる」とし、「法的要件は満たされている」との理由だ。開門の是非については「審理する立場にない」としたが、農水省には「紛争解決のための十分な努力」を促した。

【制裁金払うも現場を分断】

干拓で諫早湾を閉め切ったため漁業被害が発生した――こう主張する漁業者らが排水門の開門を求めて起こした裁判で、福岡高裁は2010年12月、一定の因果関係を認め、3年の猶予後に5年間の開門調査を行なうよう国に命じ、当時の民主党政権は上告せず、確定した。

だが営農者らは開門に「絶対反対」だ。潮受堤防内の調整池の農業用水が開門すれば使えなくなる。営農者らの反対を理由に農水省は代替水源の海水淡水化施設造成など準備工事を3年間実施せず、開門しなかった。

納得のいかない漁業者らは農水省に制裁金の支払いを求める裁判を起こし、福岡高裁は昨年6月、開門されるまで一人につき一日あたり1万円(計45万円)を漁業者らに支払うよう同省に命じた。これまでの総額は約一億円。漁業者は開門をより強く求めるため、昨年12月15日、制裁金を1日1億円に増額するよう佐賀地裁に申し立てた。

他方、営農者らが開門禁止を訴えた裁判では、長崎地裁は「準備工事の計画が不十分」であるとして13年11月、開門禁止の仮処分を決定した。営農者らも開門した場合の「制裁金」を申し立て、福岡高裁は昨年7月、これを認めた。

抗告が棄却された翌23日、西川公也農水大臣は「一連の訴訟で最高裁の統一的な判断を得る必要がある」と発言。福岡高裁や長崎地裁で争われている開門と開門禁止を求める他の訴訟でも、制裁金を払い続け、最高裁まで争う構えだ。漁業者らと農水省との2月3日の交渉で、漁業者側は「制裁金の支出総額はいくらを想定しているのか」と質問。農水省は「予断を持っては言えない」とのみ答えた。最高裁判断を待つ理由を農水省は、「二つの相反する義務の間で身動きが取れない」からだと説明する。

しかし、漁業者側弁護団は、「農業に被害が出ないよう対策した上で開門し、被害が出なければ開門を禁じた長崎地裁の仮処分の前提が崩れるので、仮処分決定後の事情変更として開門しても制裁金を支払う必要はなくなる」と主張する。

だが、営農者側の山下俊夫弁護団長は、「法律の理屈の上ではその通りだが、開門を差し止めた長崎地裁の仮処分は農水省の対策工事が事実上不可能という前提がある。代替水源の海水淡水化施設は民有地を使う計画だが、地権者は開門反対で農水省の対策工事は実現性がない。施設が機能するのかどうか、実効性もない」などと反論。

漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長は、「国の案が実行不可能なら、開門反対の人たちは被害を防止するために、どういう案なら納得できるのか意見を言うべき」として、「その話し合いを裁判所の三者(漁民・農民・農水省)協議で行なうべきだ」と述べた。

制裁金を払っても漁民と農民を分断し続ける国の責任は重い。

(永尾俊彦・ルポライター、2月6日号)