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旧日本軍の戦後処理、日中で初の民間協力――毒ガス被害に支援基金設立

2015年1月20日5:39PM

日中戦争時、旧日本軍が中国に遺棄した毒ガス兵器で現在も中国の市民に被害が続く中、日中間で民間の被害者支援基金が初めて設立される。戦後70年の日中関係の改善にも意味を持ちそうだ。

日本は、化学兵器禁止条約を批准し(1995年)、遺棄した化学兵器を廃棄(無害化処理)する義務を負っている。日中間で覚書を締結し(99年)、化学兵器を廃棄するための遺棄化学兵器処理事業を開始。昨年度は200億円を超える予算で神戸製鋼が一手に処理を請け負っている。ところが、被害の問題については所管する部署すらおかれず、まったくの放置状態にある。

被害を受けた中国市民たちが原告となり東京地方裁判所に提訴したのが19年前の96年。裁判の間も被害防止措置は行なわれず、2003年には新たな大事故が起こり(チチハル事件、一人死亡43人重傷)、翌年04年にも男児二人が被害に遭い(敦化事件)、いずれの事件も裁判が起こされた。

この二つの事件が14年10月28日に最高裁で棄却され、毒ガス被害の法的責任は認められなかった。しかし、被害が深刻であること、日本軍が毒ガスを製造・使用し、中国大陸に遺棄し、被害の原因をつくった事実は認定した。法的責任を認め、政府に被害救済施策の実現を求めた判決もあった。

毒ガスは皮膚の糜爛だけでなく、呼吸器などの内臓や神経に深刻な被害を及ぼす。チチハル事件では被害者の一人は事故後数日で亡くなり、裁判中に二人死亡した。身体的な被害のため、就職困難となり経済的にも困窮、人間関係まで破壊される。子どもは学校や名前を変えるなど通常の生活が送れないケースも多い。被害者たちは今、まともな医療も受けず最低限の生活もできないまま深刻な被害と不安に苦しんでおり、被害の放置は一刻も許されない。他方、日本政府は被害者支援に動こうとしない。

そこで、毒ガス被害弁護団連絡会議は、民間で被害救済基金を立ち上げて医療支援に着手し、同時に本来責任を果たすべき日本政府にさらに強く政治決断を求めていくことにした。また、中国の人権発展基金会と数年にわたる協議の上、昨年10月28日に「毒ガス被害者支援平和基金」を設立することで合意した。

(荒川美智代・撫順の奇蹟を受け継ぐ会、1月9日号)

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