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「大きい津波」の可能性も東電元幹部は事前に把握か――勝俣氏について語る吉田調書

2014年10月29日11:34AM

勝俣恒久元東電会長は事実を話しているのか。(撮影/畠山理仁)

勝俣恒久元東電会長は事実を話しているのか。(撮影/畠山理仁)

東京電力(東電)福島第一原発事故を起こす要因の一つとなったのは東京電力の対策を超える津波だった。事故時に東電会長だった勝俣恒久氏は当時、想定された高さを超える津波が来る可能性について知らなかったとしていたが、これが嘘である可能性が高いことが吉田昌郎所長(当時、2013年死去)の調書(以下、吉田調書)から明らかになった。勝俣氏ら東電元幹部3人に対しては今年7月、検察審査会が「起訴すべき」(起訴相当)と議決し、東京地検が再捜査している。勝俣氏の「嘘」は今後、波紋を広げそうだ。

吉田調書は、政府事故調査・検証委員会が吉田氏から事故当時や事故前の状況を聴取した記録で、9月11日に公開された。吉田氏によると、2007年7月16日に東電柏崎刈羽原発を襲った中越沖地震以降、地震を極めて大きい、重要課題としてとらえるようになった。勝俣氏は当時、東電社長だった。吉田氏の証言は具体的だ。

〈社内では、地震の、特に中越沖地震の対策の会議を社長会という形で月1ぐらいの頻度で、日曜か土曜日に集まってやるというのがありまして〉〈太平洋側の場合は、いろいろ学説が今、出ておって、大きい津波が来るという学説もあります。それをベースに計算すると、今、想定している津波高の、何mと言った記憶はないんですけれども、要するに、今、5m何十cmという今の設計のベースよりも大きい津波が来る可能性が否定できない〉〈場合によっては高い津波が来れば、それなりの対策が必要です。そのときにはこの費用がそれなりに固まってくるんで、それも5億、10億という話ではなくて、かなり桁の大きいお金が来ますよということを説明した〉

質問者の〈予算発動があり得るような指摘もございますという話をされたときに、社長や会長の反応は覚えておいでですか〉という問いに吉田氏はこう答えている。

〈勝俣さんは、そうなのか、それは確率はどうなんだと。勝俣さんの場合、非常に理論的ですから、説明すると、蓋然性というか、どれぐらいなんだと、こういう話はされたと思うんですよ。多分、性格からしてもですね〉

869年(貞観11年)に貞観大地震・大津波が東北の太平洋岸を襲ったことから、福島第一原発を大津波が襲う可能性を複数の研究者が指摘していた。このことにも吉田氏は言及している。

〈貞観津波というのは、私はたしかその後で、ここで一回、社長、会長の会議でも話をしました〉

勝俣氏はこれまでどのような証言をしていたのか。2012年5月14日に開かれた国会事故調で、野村修也委員が〈津波が来てしまったときに全電源喪失になるかもしれないという知見が二〇〇六年のときに届けられているわけなんですが(略)何か対策を講じることはできたんじゃないですか〉と尋ねたのに、勝俣氏はこう答えている。〈この情報というのは(原子力)本部止まりであったということは一つの今後の課題であるかもしれません〉〈恐らく本部長のところまでで終わったんだろう〉〈結果的には私のところまでは来ていなかった〉(括弧内は筆者)

一方、福島第一原発事故をめぐって東電が巨額の損失を出したのは安全対策を怠ったためだとして、株主が現・旧経営陣を相手に約5兆5000億円を東電に賠償することを求める株主代表訴訟を起こしている。原告の株主側は、部下である東電の原子力担当従業員から対策を上回る津波が襲う危険性について勝俣氏が報告を受けていたと主張しているが、勝俣氏側は今年7月に提出した書面で〈否認乃至不知乃至争う〉(「認めない」または「しらない」または「争う」)と答弁していた。

原告側は9月25日の口頭弁論で吉田調書を書証として提出。〈「不知」又は報告が「実際上もなかった」なる認否ないし主張をすることは、それ自体嘘以外の何ものでもなく〉〈いかに無責任な認否をしているかが端的に明らか〉と反論する書面を提出した。勝俣氏は事故の責任を真摯に受け止めるべきだ。

(伊田浩之・編集部、10月17日号)

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