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文科省所管の物質・材料研究機構で労働事件――残業代支払わず休業中に雇い止め

2014年9月4日5:04PM

茨城県つくば市にある独立行政法人物質・材料研究機構の本部棟。(撮影/片岡伸行)

茨城県つくば市にある独立行政法人物質・材料研究機構の本部棟。(撮影/片岡伸行)

過労死基準(月80時間の残業)を超える時間外・休日労働を放置し、残業代の支払いを求めたらクビ……。ブラック企業にある手口だが、この事例も似ていないか。

国立研究所が統合し2001年に設立された文部科学省所管の独立行政法人物質・材料研究機構(茨城県つくば市、潮田資勝理事長)から一方的に雇い止めをされたAさん(36歳)は、12年6月までに同機構を相手取って二つの裁判(未払い賃金、地位確認・損害賠償請求)を起こした。

訴状などによると、民間企業の研究員だったAさんは08年4月、同機構でナノ物質(ナノは10億分の1を示す単位)の研究に当たるグループリーダーに請われ、引き抜かれる形で転職。「2年くらいで博士号を取得できる」が誘い文句だったという。

同機構の職員は1500人余おり、うち期間の定めのない雇用契約を結ぶ「定年制職員」が約550人、期間の定めのある「任期制職員」が1000人近くいる(14年7月現在)。任期制職員は毎年、雇用契約を更新する仕組みだ。

任期制職員として採用され研究業務に就いたAさんだったが、当初から月の時間外・休日労働は100時間を超え、多いときには200時間超の月(09年5月)もあったという。体調を崩し、10年9月から長期の休業を強いられた。それでも同年11月には復職し、激務に耐え、09年から11年まで毎年4月に3回にわたり雇用契約を更新してきた。

しかし、これだけ長時間の残業をしても残業代が支払われないのはおかしいと、休業前の10年7月15日、上司のパワハラや雇用契約のあり方なども含めて問題提起した文書を理事長宛てに提出。翌年2月には、潮田理事長との直接面談があった。20分近くのやりとりの中で、潮田理事長はAさんに対して次のような発言をしたという。

「要するに甘ったれてるんだよ」「法律に違反するような行為がありゃあ、もちろん訴えりゃいいんだ。訴えて勝てると思えば」。さらに「勝ち目のない戦争はやらないことだ」……。

人事課や理事にも残業代の支払いを求めたが、「出勤簿上、勤務実態がない」などと言われ、支払いを拒否された。納得できないAさんは土浦労働基準監督署に申告。同監督署は立ち入り調査の上、同機構に対して11年5月31日に「是正勧告」を出した。残業代を支払えという勧告だ。しかし、同機構はこれに応じていない。

こうした中でAさんの病状は悪化し、再び11年3月から長期の休業に入る。ところが、同機構は労災認定を申請し休業中のAさんに対し、12年4月以降の契約更新を拒否してきた。土浦労基署から「業務上の労働災害(労災)」との認定を受けたのはその翌月(12年5月)のことだ。業務上の要因で療養中の者を一方的にクビにする行為は、労働基準法19条(解雇制限)に抵触する疑いもある。

【機構は「自発的な活動」】

残業代に絞って同機構に質問をすると、「弁護士と相談の上」、次のような回答がきた。

同機構にはタイムカードはなく、時間外労働は職員が出勤簿で自己申告するシステムだという。Aさんの残業については「自発的な活動という側面」があるとの見解で、「残業の命令」をしたことはなく、「そもそもA氏が残業をしたと認められる時間はありません」。したがって、残業代を支払わないという理屈だ。

Aさんは反論する。「私の労働形態は裁量労働制ではなく、与えられた業務量は明らかに所定労働時間内で終わるものではなかった」。

タイムカードに記録せず、時間外労働を指摘されると「自発的にやっていた」という“自己責任”にする……。管理責任のある文科省は、こうした労働時間管理をよしとしているのか。

「これは私ひとりの問題ではない。裁判を通じて任期制職員の立場の改善につながれば」と、Aさんは話す。次回の口頭弁論は9月8日、水戸地裁土浦支部で開かれる。

(片岡伸行・編集部、8月22日号)

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