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河野談話「作成過程」の報告書――検証そのものが茶番

2014年7月8日12:14PM

「検証」の報告書には但木敬一座長ほか秦郁彦氏(現代史家)らの名が連なる。(撮影/編集部)

「検証」の報告書には但木敬一座長ほか秦郁彦氏(現代史家)らの名が連なる。(撮影/編集部)

宮澤喜一内閣の河野洋平官房長官が1993年に発表した「慰安婦問題」についての政府見解(以下、河野談話)について、「河野談話作成過程等に関する検討チーム」(座長:但木敬一弁護士)は6月20日、「慰安婦問題を巡る日韓間のやりとりの経緯~河野談話作成からアジア女性基金まで~」と題する報告書を発表した。

河野談話の撤回をもくろむ国内の右派勢力と、撤回は許さないとする国際社会、とりわけアメリカとの板挟みになった安倍晋三内閣が今年2月に打ち出したのが、河野談話の「作成過程」を検証するという方針だった。検証のポイントは2点、(1)談話の文言についての韓国政府との調整の有無と、(2)元「慰安婦」に対する聞き取りの裏付け調査の有無である。

報告書は(1)について、「韓国政府の意向・要望について受け入れられるものは受け入れ」たとしている。当時「慰安婦」問題が日韓間の外交的懸念となっていた以上、表現について交渉が行なわれたのは当然であり、報告書も「事実関係を歪めることのない範囲」で調整が行なわれたとしている。だが、撤回を求める勢力は今後、「河野談話は韓国への配慮の産物」などとして攻撃を強化するだろう。

つづく(2)について、報告書は「裏付け調査や他の証言との比較は行われなかった」と述べ、河野談話の原案は聞き取り調査の終了前に作成されており、事実の究明よりも政府の「真摯な姿勢」を示すことが目的であったとしている。証言の信憑性は談話の信憑性に無関係と読み取ることができ、撤回を求める勢力も「聞き取り調査は儀式にすぎなかった」などと、攻撃の材料とすることが予想される。

全体として報告書は、「河野談話」作成過程に疑問符をつけ、問題解決の遅れを韓国側に帰責するという右派勢力のねらいに合致している。とはいえ、「河野談話」発表以降、研究者らによる「慰安婦」関連の調査が進められており、今回の「検証」作業そのものがそうした調査の成果を無視するための論点のすり替えにしか見えない。

(能川元一・大学非常勤講師、6月27日号)

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