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国際司法裁が調査捕鯨を違法と判決――日本は「勝ちたくなかった」

2014年4月21日6:40PM

調査捕鯨船から運び出される加工済の鯨肉=2006年4月15日、金沢港。(C)Greenpeace / Masaya Noda

調査捕鯨船から運び出される加工済の鯨肉=2006年4月15日、金沢港。(C)Greenpeace / Masaya Noda

南極海での日本の「調査捕鯨」は国際条約に違反するとオーストラリアが訴
えていた裁判で、オランダ・ハーグの国際司法裁判所は3月31日、日本の調査
捕鯨は科学的ではなく違法であると判決を下した。これを受けて水産庁は4月
3日、2014年度の南極海での調査捕鯨を中止すると発表した。敗訴の報告を受
けて安倍晋三首相が事務方を叱責したそうだが、実は外交ではマイナス面でし
かない日本の捕鯨をカードに使い、オーストラリアとのEPA(経済連携協
定)を優位にすすめようとしたというところが本音だろう。ただ、かつての代
表的な捕鯨拠点である山口県下関を地盤とする首相としては「叱る」という演
出が必要だったのだ。

さて、多くの人は日本政府がこの裁判に「勝ちたい」と意気込んでいたと思
うだろう。しかし私は実際そうではないと考える。勝訴していれば、困るのは
日本の調査捕鯨事業そのものだからだ。

第一に、国内での鯨肉需要は低迷している。南極海での調査捕鯨の捕獲枠は
合計で約1000頭程度。国の委託を受ける一般財団法人日本鯨類研究所(鯨研)
が南極海の船上でクジラを解体・商品用に箱詰めし、日本に帰港後にそのまま
食肉として販売し、次年の捕鯨の財源にしている。

これが国際的に「商業捕鯨だ」と批判される理由だ。しかし、12年9月末の
段階で在庫は5637トンまで膨れ上がった。年間3000トン前後が国内の鯨肉消費
量とされていることから、在庫が年間消費量の2倍近くまで増えたことがわか
る。この在庫が鯨研の資金繰りを悪化させ、11年9月末、鯨研は8億7000万円
の債務超過に陥った。

第二に、調査捕鯨は税金頼みの事業ですでに破綻している。国際捕鯨委員会
(IWC)は1982年に商業捕鯨のモラトリアム(一時停止)を決議しているが、
そもそも日本の「調査捕鯨」とは名ばかりで、目的は「商業捕鯨の再開」であ
る。しかし前述のとおり鯨肉の国内需要は下がり続け、南極海まで大型船団を
送る莫大な経費が伴う捕鯨は商業的に成り立たなくなった。

鯨研は年間50億円程度の予算で調査捕鯨を行なってきたが、年間7億~10億
円程度の国庫補助金に加え、12年度からは約45億円(鯨類捕獲調査改革推進集
中プロジェクト)の追加補助金を受けることで事業を維持しているという。

つまり、補助金を投入して調査捕鯨を維持していることが、商業捕鯨が再開
不可能であることを証明してしまったのだ。さらに、12年には東日本大震災復
興のために使われるべき23億円もの税金が、鯨研の借金返済に使われていたこ
とをIKAN(イルカ&クジラ・アクション・ネットワーク)やグリーンピー
スが暴露した。会計検査院は13年にその使途が不適切であったと結論付けてい
る。

【クジラ肉の横流しも】

さかのぼって08年、国際環境NGOのグリーンピースは調査捕鯨のクジラ肉
が横流しされているという内部告発を受け、捕鯨船の船員たちが自宅に送って
いたクジラ肉の入った箱を証拠として確保し東京地検に告発したところ、それ
が逆に窃盗だとして逮捕・起訴されてしまった。後に水産庁はこの不正を認め
謝罪したが、仙台高裁は不正を指摘したグリーンピースの職員、筆者ともう一
人に対して青森地裁の懲役1年・執行猶予3年の判決を維持する決定を下した。
国際司法裁判所の判決後は捕鯨の経済性や外交面での問題などが指摘され、世
論が変わったことを実感している。

最後に強調したい点は、調査捕鯨をめぐる一連の議論が政治的なものであっ
て、本来必要な海洋環境とその生態系の著しい変化への対応策が置き去りにさ
れている事実だ。日本政府が科学を重視するのであれば、調査捕鯨を中止し、
国際的な協力のもとでより包括的な海洋生態系調査を南極海で行なうべきだ。
そうすれば、国際的な理解を回復できるだろう。

(佐藤潤一・グリーンピース・ジャパン事務局長、4月11日号)

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