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特別措置法施行で、個人タクシーは戦々恐々――業界への横並び値上げ圧力

2014年4月16日6:07PM

 4月1日からの消費税増税を、悲痛な思いで受け止めた人がいる。東京都心で個人タクシーを営む太田裕行さんだ。

「個人タクシーのほとんどは免税事業で、消費税率が上がっても運賃に転嫁する必要がないんです。それでなくても、景気や経費削減の影響で、タクシーの売り上げは減少に歯止めがかからないわけだから、益税とするより利用者のためにも、これまでの運賃を維持したかった」

 新聞では、東京23区と武蔵野市・三鷹市では初乗り運賃710円が730円になったと、業界全体の動きのように伝えているが、これまでタクシー運賃に「定価」はなかった。

 それが大きく変わったのが、今年1月27日から施行されたタクシー業務適正化特別措置法の改正だ。大都市を含む全国155の地区を指定し、そこでは各地の運輸局が示す運賃の上限と下限(公定幅)の範囲から、事業者が運賃を選んで届出を出すことを求めた。

 税率引き上げ間近の2月27日になって示された新たな公定幅運賃によると、太田さんのように個人タクシーの大半が使う排気量2000ccを超える大型車の運賃(※表参照)では、下限運賃が710円から730円に引き上げられた。新たな公定幅運賃は、国土交通省の消費税転嫁方針に基づくものだが、消費税の「免税事業者」でも、この公定幅運賃を守らなければならない。消費税転嫁の必要性の有無にかかわらず、運賃を引き上げなければならないのだ。

「公定幅の中では自由に運賃が選択できるのだから、国が運賃を定めているわけではない」と、国土交通省旅客課は反発するが、下限運賃を維持するためには、営業車両を乗り換えるか、値上げに備えて運賃を高く設定するしかない。

 さらに特措法は、下限運賃を下回った届出をして運輸局に個別審査を求める道を、事実上閉ざしている。

「国はタクシーは公共交通だといいますが、運賃を上げると、利用者は必ず減る。通勤や通学で高くても乗らなきゃいけない電車やバスとは違うんです。客足が回復するまでに長い時間が必要で、その間売り上げの減少に苦しむことになる。運賃を上げることより収支が合うことが大事で、これまで国はその個別審査をしてきたのです」

【厳しい罰則も】

 訴訟も辞さずという太田さんの決意を崩したのは、特措法の厳しい罰則だった。「届出を出さないと、営業停止60日の処分が待っている。変更命令に従わないと、営業免許を取り上げられてしまうのです。私は個人タクシー組合の理事でもあり、組合員の利益を守りたかったが、本当に悔しい」

 そもそも特措法は、何を目指しているのか。タクシーに詳しい業界紙記者はこう解説する。

「特措法そのものは、過当競争をなくし、輸送の安全と利用者の利便のためという目的があるわけですが、それとは別に、法人タクシーの事業者の多くは運賃が高いに越したことはないというのが大多数。一方で労働組合にも下限運賃をなくせば、労働環境を守れないという主張があって、両方とも同一地域同一運賃の回帰を求めていた。しかし、それは許されないので妥協の産物として公定幅運賃が導入された。まさに呉越同舟で議員立法化されたのです」

 その仕かけ人が「自民党タクシー・ハイヤー議員連盟」会長の金子一義元国交相だった。金子氏は、参入規制で過当競争を抑えることが業界を適正化し、運転者の待遇改善にもつながると訴えてきた。

 しかし、国が決める運賃は、利用者の増加を保証するものではない。前述の業界紙記者は懸念する。

「業界を保護することが正しいかどうか。今後深夜バスなどが整備され、さらに苦境に立たされるかもしれないし、料金が上がるたびに利用者が減っていく銭湯のような状況に陥らないとも限らない。今後、運賃設定に納得しない一部の法人や個人では、独禁法の適用除外の是非も含めて訴訟が起きる可能性もあります」

(中島みなみ・ジャーナリスト、4月4日号)

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