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夫婦関係清算など動機をめぐり諸説飛び交う――内閣府職員の変死、深まる謎

2014年3月4日6:20PM

内閣府職員が乗っていたとみられるゴムボート。(提供/第七管区海上保安本部)

内閣府職員が乗っていたとみられるゴムボート。(提供/第七管区海上保安本部)

 留学先の米国から韓国を訪れていた内閣府のキャリア官僚男性(30歳)が1月、北九州市の沖合でゴムボートとともに遺体で発見されたことを受け、事件性の有無も含めて背景をめぐり臆測が飛び交っている。一部メディアで「何らかの工作活動を行なっていたのでは」といった見方も出されたが、日韓の捜査当局は男性が自ら日本への潜入を試みた可能性が高いと判断しており、ゴムボートで航行中の「海難事故」として対応するとみられている。だが、明らかになっている足取りは不可解な部分が多く、全容の解明には至っていないのが実情だ。また、メディアは続報に関し、沈黙を保っている。

 男性は2010年に入省。内閣府のシンクタンク「経済社会総合研究所」に所属し、経済を学ぶため、昨年7月から2年間の予定で米ミネソタ大学大学院に留学していた。男性が韓国への入国を内閣府に申請したのは昨年12月9日。「ソウル市内で開かれる経済セミナーに参加したい」というのが理由で、費用は渡航費を含めて全額自腹だった。滞在予定は1月7~12日だったが、実際には3日に韓国へ入国している。

 日韓の情報当局者によると、男性はソウル市内の繁華街にあるビジネスホテルに宿泊。その際、1週間分の料金を前払いしたという。だが、男性はその後、奇妙な行動を取る。6日になってソウル市内でゴムボートと小型の船外機を現金100万ウォン(約9万3000円)で購入。その際、黒いジャンパー姿でマスクを着用し、英語で自らを「アレックス」と名乗り、釜山市内のホテルにそれらを送るよう指示している。8日には釜山市のホテルで「アレックス」と名乗る男性がボートを受け取り、同市内のカー用品店でバッテリーなどを購入。男性はそのままソウルへ戻り、ホテルに寄ったことが確認されているが、その後の足取りはわかっていない。8~10日に行なわれた経済セミナーには、出席していないことが確認されている。

 男性は18日午前、北九州市沖の響灘で漂流するゴムボートの中で倒れているのを航行中の船に発見された。ゴムボートは転覆し、男性は20日になって海中から遺体で収容。司法解剖の結果、死亡したのは8~15日の間と推定され、死因は溺死か低体温症とされた。肺からは大量の海水が検出され、男性が海中に転落した可能性があることを示している。

 だが、釜山から対馬までは最短でも50キロメートルほどの距離があり、韓国海洋警察庁の関係者は「潮の流れも速く、冬は海も荒れており、ゴムボートで航行するのは不可能」と断言する。ここで浮上するのが、男性が船で釜山沖まで運んでもらい、そこから航行を試みたというストーリーだ。日本の情報当局者は、男性が釜山で複数の密航組織と接触した形跡があると明かした上で「遺体はジャンパーを2枚重ね着し、靴下も2重だった。しっかりと防寒対策をしており、沖合からゴムボートに乗り換えて日本を目指したのではないか」との見方を示す。

 さらに、男性の旅券は許可なしの帰国ができない特別なものだったことから、ボートでの「密入国」を図った背景には、よほどの事情があったことがうかがえる。捜査関係者の間には「夫婦関係に問題があり、清算しようとした」など諸説が飛び交っている。日本で「目的」を果たした後、再びボートで北九州市沖に向かい、密航組織に合流して韓国に戻ることで、日本入国の足跡を完全になくすという筋立ても浮かび上がる。

「スパイ説」も出されたが、男性は情報関係とは無縁で「経済の分析など学者のような仕事」(別の内閣府職員)に就いていたという。日韓の情報関係者も一様に「インテリジェンスの仕事に巻き込まれたとは考えられない」と口をそろえている。日本の情報関係者は「男性の行動は奇妙に見えるが、足取りを把握されてしまう時点で(情報の)プロではない。背景は決して複雑ではない」と話しており、日韓の海峡をまたいだミステリアスな一件の真相は、鉛色の海の底に沈んだままとなりそうだ。

(北方農夫人・ジャーナリスト、2月21日号)

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