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特定秘密保護法は、政府の下半身を隠すものだ(ローレンス・レペタ)

2013年10月18日6:56PM

 米国は、国家安全保障局(NSA)による全世界の盗聴網を暴露したスノーデン氏を起訴し、ウィキリークスに情報を提供したマニング上等兵に懲役35年の刑をくだした。こんな米国の悪行を、日本は真似しようというのか。

マニング、スノーデン両事件に見る「国家秘密」のウソ

 国会は近く「秘密保護法」の審議に入るが、安倍内閣によって提出され、パブリックコメントにかけられたこの法案は、厳しく批判されている。この法案の多くの欠点が、日本弁護士会や他の団体によって指摘されているのだ。

 欠点とされているのは、秘密とされる情報の定義が極端に広い、公文書を公開させる権限を持つ独立した監視機関について触れていない、社会にとって重要な問題を報じたジャーナリストなどの人々が、犯罪として告発される可能性があること、そして何よりも、安全保障の問題について知る権利の重要性がまったく認識されていないことである。

 民主的な社会なら、およそ人々から情報を隠す権限を政府に与えるような法や規制というものは、慎重に検討されねばならない。政府が情報を秘密にすることの必要性を主張するなら、人々の知る権利とそれがどのように関わることになるかが、同時に考慮されねばならないのである。

 政府が情報を秘密にすることと、国民の知る権利とのバランスを維持することの難しさ、そしてそのバランスが崩れた際に生じる極めて深刻な問題については、米国で大々的に報じられたマニング、スノーデン両事件に示されていよう。この両事件が示す最も顕著な問題とは、政府が情報を過剰に機密扱いにすることで極端な秘密主義が生じ、さらにこうした情報を扱う権限を与えた巨大な官僚組織を統率することが困難となるということだ。

 多くの専門家は、外部の敵から米国をより安全にするためと称されている国家機密のシステムが、現実には米国をより脆弱にしていると考えている。国家安全保障の専門家である政治学者のモートン・ハルペリン氏は、「あらゆる研究の結論は、こうした問題を解決するためにまずやらねばならないのは、秘密指定情報の量を劇的に少なくすることだ」としている。

     米スパイ法の非合理さ

 米国では毎年、おびただしい量の政府文書が秘密指定されている。国家情報局長官(D.N.I.)の報告書によれば、四〇〇万人以上の人間が秘密指定された情報を見ることができる極秘情報取り扱い資格を保有している。そのうち実に一四〇万人もが、マニング、スノーデン両氏がそうだったように「トップシークレット」に接する資格がある。これほど多数の人々を巻き込んだ巨大なシステムが、国家機密を管理する効果を持ちうるとは到底考えられまい。

 こうした膨大な情報の機密を保持するという途方もない課題に直面して、米国政府がとった政策は、犯人として捕らえうる限りの機密漏洩者に対し、極端に厳しい罰則を求刑するということだった。マニング二等兵の訴追にあたって政府側が求刑したのは、懲役六〇年である。八月に下された判決では、懲役三五年が宣告された。

 マニング氏は、外国に雇われたスパイではない。彼が明るみにした情報は、外国の諜報機関に渡されたわけではなかった。それは、米国そして世界中で読むことのできる新聞に掲載されたのである。こうした場合の罰則は、たいていの国では米国よりはるかに軽い。

 米国で「スパイ」が法の裁きを受けるようになったのは、一九一七年スパイ法に端を発している。これは米国が第一次世界大戦に参戦した直後に導入された法規で、政府の権力というものについての理解が、今日のそれと非常に異なっていた時代のものである。「知る権利」という用語は一九五〇年代までに登場したことはなく、情報公開法の成立は一九六七年まで待たねばならなかった。

 この一九一七年スパイ法は、曖昧で定義が広すぎると批判されたように内容が不十分なまま起草され、この法律を執行せねばならない裁判官たちすらも、そのように批判したほどだ。だが、依然有効で、秘密をもらしたと告発されたすべての人々を罰するための恐るべき権限を米国政府に与えている。のみならず、政府は有罪判決を引き出す上で、情報を暴露した結果いったいどのような害悪が生じたのかについては、何も証明しなくともいい。

     「ツワネ原則」こそモデルだ

 マニングとスノーデン両氏のような個人に対する政府当局の告発は大きく報道され、特定の個人を厳しく罰したものの、国家の安全保障に関する情報の保護はどうあるべきかという重要な問題を何も解決してはいない。そしてこのような米国の例は、日本が従うべきモデルでは決してありない。別のモデルがあるのだ。

 今年になって慎重に検討すべき新しいモデルが登場した。今年六月に南アフリカのツワネ市で開かれた会議で採択され、発表された「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(『ツワネ原則』、”Tshwane Principles”)である。この原則は、国家安全保障分野での情報保持、あるいはそうした情報の暴露に対する処罰の権限について、関連の法・規則の起草や修正、執行にあたっての詳しいガイドラインを示している。日本政府が新秘密保護法を採択しようと考えているまさにその時に、こうした国家安全保障の分野の情報に関する新たな権威ある勧告が登場したのは、まさにタイムリーではないか。

「ツワネ原則」の策定作業は二年以上にわたり、世界中から参加した数百人の現職あるいは退職した政府の官僚や軍の将校を含む専門家たちが加わった。それは、知る権利や、政府が合法的に秘密にしておきたい国家安全保障の情報の範囲、ジャーナリストや独立した監視団体の保護といった論点のみならず、秘密保護法案に関して、日本の国会議員や有権者が考えねばならないような他の論点も提起している(注1)。

 すべての人々にとって最も重大な問題は、情報を過度に秘密にすることにより、政府に不当な行為を許す完璧な条件を与えてしまうことである。マニング二等兵がウィキリークスに提供したデータは、米国の全世界における軍事・外交活動のベールを暴いた。そうしたデータには、二人のジャーナリストを含めた市民たちが殺害された、二〇〇七年にバグダッドで起きた米軍ヘリコプターによる攻撃のビデオ映像が含まれる。彼はウィキリークスに、二五万件の外交電報や、キューバのグアンタナモ強制収容所に裁判なしで投獄されている拘束者の資料、イラクとアフガニスタンでの戦争で起きた何十万という事故の報告書も提供した。

     政府の不当行為阻止のために

 エドワード・スノーデン氏がこの五月にリークした情報に基づき、英『ガーディアン』紙は巨大電子スパイ機関である米国家安全保障局(NSA)が行なっている秘密監視プログラムを暴露する一連のスクープ記事を掲載した。スノーデン氏の暴露によって、私たちはプリズムやXキースコア、テンポラ・インターネット監視プログラムの存在を知った。さらにNSAが、米国市民のメタデータ(注2)を収集したり日本等米国の「同盟諸国」を含む全世界の政治的指導者の会話を傍受するため、そうしたシステムや電話会社やインターネットのプロバイダーとの間で結んだ秘密協定を利用していた事実も、私たちは知ったのだ。

 日本の読者は、自国民がアフガニスタンやイラク、そして世界のどこかの戦争に巻き込まれず、自分の国にNSAに匹敵するようなスパイ機関がないことに安堵するかもしれない。しかし、これから将来、どうなるかについては誰もわからないのだ。

 日本の国民が、国家の安全保障に関する秘密を保護するためのしかるべき制度を企図するとなれば、米国と同じ権力の乱用という危険性が必然的に持ち上がってくるだろう。

 マニング、スノーデン両氏や他の情報提供者、内部告発者の行動がなければ、私たちは米国政府による数々の不当行為を決して知ることはなかった。政府の情報を公開することによって守られているのは、人々の知る権利以上のものである。政府の不当な行為を止めさせるのにも役立つのだ。自分たちの行為が公的な調査の対象になるとなれば、政府の官僚らは、悪事を控えるだろうから。

 日本の国民が秘密保護法案について思いをめぐらすのであれば、民主的な政府にとって情報を過度に秘密にしておくことがいかに危険であるかを、注意深く考えるべきである。

(訳/成澤宗男・編集部、取材協力/乗松聡子、9月27日号)

(注1)「ツワネ原則」では国家の秘密情報を「国防」など限定した範囲で認めるが、人権侵害や違法行為を秘密とするのを許さない。また暴露された情報の価値が秘密にするより公開した方が社会的に有益と判断されたら、暴露した者は罰せられない。日本語の要約は、URL http://peacephilosophy.blogspot.jp/ に掲載。

(注2)データそのものではなく、そのデータに関連する作成日時や作成者、データ形式、タイトルなどについての情報。

Lawrence Repeta.1951年、米国生まれ。弁護士。テンプル大学副学長等を経て、現在明治大学特任教授。日本の裁判の法廷で傍聴人がメモを採ることの許可を求めたが認められなかったため、1983年に国家賠償請求訴訟を起こす。最高裁で敗訴したが、その後実質的にメモは解禁に。今年2月には、外国特派員協会で講演し、自民党の改憲草案を批判した。

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