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業務区分の撤廃など報告書まとめ――派遣法改悪への流れ加速か

「雇用安定に必要なのは専門業務の偽装など脱法行為の規制」と訴えるユニオン。(撮影/清水直子)

「雇用安定に必要なのは専門業務の偽装など脱法行為の規制」と訴えるユニオン。(撮影/清水直子)

 労働者派遣法の改悪につながる報告書が、厚生労働省の有識者研究会(座長・鎌田耕一東洋大学教授)によってまとめられた(八月二〇日)。安倍晋三政権下でさらに雇用環境が深刻化する恐れが出てきた。

 報告書では、派遣専門業務と一般業務の区分そのものを廃止。一人の派遣労働者が同じ職場で働ける期間を最長三年とし、業務による期間制限を撤廃すべきとしている。

 現行の労働者派遣法は、通訳やOA機器操作など専門性が高いとされる二六業務には制限期間は設けていないが、専門業務以外は、企業が派遣を受け入れられるのは原則一年、最長三年に限定している。正社員の担う恒常的な業務を派遣に置き換える、常用代替などの脱法行為を防止するためだ。

 現行法の下では、一般事務の派遣労働者を期間制限のない専門業務と偽り、制限を超えて派遣する例が後を絶たないという問題はあるものの、業務区分を廃止すればさらなる悪環境を招く恐れがある。

 派遣労働者を組織する労働組合「派遣ユニオン」の関根秀一郎書記長は、「派遣労働者を三年ごとに入れ替えさえすれば永続的に派遣を受け入れられる、使用者側に都合のよい内容だ。この方向で派遣法改悪が行なわれれば、多くの会社で正社員を派遣に切り替えていくことになる」と批判。「正社員として働きたいのに派遣でしか働けない」事態を拡大し、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指す安倍政権の方針に沿って、雇用不安定化が進むことになる。

 報告書は派遣のあり方として、派遣労働者と派遣会社との雇用契約が、有期か、無期かで扱いを分けている。有期雇用の派遣労働者は、三年を上限に職場を転々としながら、正社員に比べ雇用が不安定で低賃金の立場に固定されることになる。一つの業務に三年を超えて派遣労働者を受け入れる場合は、職場の労働者代表の同意が必要という要件を示しているが、多くの中小企業には労働組合もなく、実効性のある規制にはならない。

 技術者派遣などに多い無期雇用の場合は、専門性も高く雇用が安定しているとして、業務の種類にかかわらず派遣期間の上限は設けない。しかし、そもそも派遣である必要があるのか、派遣先企業が直接雇用しない合理的理由はあるのか、という疑問はぬぐえない。

 この厚労省の有識者研究会には、労働者側の代表が一人も参加していない。実際は、業界団体である日本人材派遣協会と日本生産技能労務協会が、田村憲久厚労大臣に出した要望書を踏襲する内容になっている。使い捨てしやすい労働力を増やしたいという派遣を受け入れる企業のニーズ、派遣を拡大しビジネスチャンスを増やしたいという派遣会社のニーズに応える偏った内容になった。

 派遣制度見直しの動きは、八月三〇日から始まる労働政策審議会の論議を経て、早ければ年明けの通常国会へ改正法案が提出される見込みだ。労働政策審議会には、労働者側の代表も参加する。

 関根さんは「二〇〇八年にはリーマン・ショックの影響で派遣切りが横行し、仕事も住まいも失った多数の労働者が路上に追いやられた。その後、民主党政権の下で労働者保護の規制強化が進められたが、安倍政権は派遣労働者が直面する不安定雇用の問題は対処しないまま、労働者を保護する規制を緩和しようとしている」と語る。

 安倍政権は、派遣制度だけでなく、労働分野全般で労働者保護に関わる規制緩和を進めようとしている。導入が提案されている限定(ジョブ型)正社員は、仕事の内容や勤務地、労働時間を限定する一方で、元々契約していた仕事がなくなったら解雇できるルールを定める、とされている。

 正社員を非正規雇用に近づけて解雇をしやすくする一方で、派遣労働者は受け入れやすいように制度を変え、双方から働く人の権利をなくし、使い捨てを容易にしようという内容だ。

 派遣ユニオンなど派遣労働者を組織する労働組合は、当事者の声を国会に届ける運動をし、これ以上の雇用破壊を食い止める構えだ。

(清水直子・ライター、8月30日号)