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富山、沖縄、福井……大学教授らが影響試算――TPPで農業所得が大幅減に

2013年7月23日6:33PM

 参院選挙の争点の一つ、TPP(環太平洋戦略経済連携協定)への参加で私たちの暮らしはどうなるのか――。「TPP参加交渉からの即時脱退を求める大学教員の会」(呼びかけ人・醍醐聰東京大学名誉教授ら)が七月五日、第二次TPP影響試算結果を発表した。

 試算は各都道府県ごとに行なわれ、米、麦類、牛乳・乳製品など一九品目の生産減少額および所得減少額(農家の所得)を積み上げ方式で試算したものだ。試算によればTPPに参加した場合、農産物生産額は全農産物の生産総額九兆六二五四億円のうち二兆五一四二億円減少(二六・一%の減少率)し、農業所得は全所得総額二兆九二五八億円のうち四〇八一億円減少(同一三・九%減)する。

 各都道府県別にみると、生産額減少の影響が大きいのは、富山・四三・八%(▲三二七億円)、福井・四一・二%(▲二一二億円)、北海道・四〇・三%(▲四六四二億円)の順で、いずれも生産減少率が四割を超える。農業所得額減少の影響では、富山・三三・五%(▲七三億円)、沖縄・二八・〇%(▲一一六億円)となった。

 試算にあたった島根大学の関耕平准教授は、「富山県や福井県はいずれも米を中心とした農業生産のためTPPに参加した場合の影響が大きく、北海道は、酪農やビート(砂糖用品種群)が大きい」と言う。米への所得依存度が高い富山や福井のほか、TPPに参加した場合、すべてが輸入品に置き換わるとされているサトウキビが主要農産物である沖縄なども農業所得に大きな打撃を受けることが示された。

 TPP参加による影響について政府は、全国で約三兆円の農林水産物生産額が減少すると試算しているが、甘利明経済産業大臣(TPP担当大臣)は五月八日に「不安を煽るような試算の出し方は疑問」と発言し、都道府県別の試算は行なわず、公表もしない方針だ。

 本試算はあくまで政府統一試算の考えに基づき試算されたため、これでも「控えめな結果」(関准教授)。たとえば、「こんにゃくいも」や「茶」などについては、TPP交渉関係国からの輸入実績がほとんどないことを考慮し、本試算にも含まれていない。関准教授は、本試算結果を足がかりに「各地域における農業特性などの視点を加えたTPP交渉参加の是非について適正な議論」の必要性を説いた。

 政府統一試算をもとにマイナスの経済波及効果を都道府県別に分析した静岡大学の土居英二名誉教授は、「TPPの影響は農林水産業だけではなく、地域産業全体の問題」として、「TPP=農業」という認識を改めるべきと指摘。関税撤廃の影響は都道府県単体で見るのではなく、他関連地域からの影響も無視できないとした。

 土居教授は「まだ試算途中」としながらも、関税撤廃による安価な輸入品の増加などで家計負担が減少するなど、プラスの経済効果が期待できる東京などの大都市がある一方、地方では農林水産業関係および関連産業の雇用機会喪失を含め、マイナスの影響が大きいとした。

 醍醐名誉教授は、試算結果を受け、「TPPに参加してもしなくても(農業衰退の結果は)同じといった議論もある。だが、影響がないならばいいが、本試算では所得が減るという結果が示された。これでは所得倍増どころか真逆の結果になる」と政府方針を批判。

 TPPについて、中央と地方の方針の違いが明らかになっている自民党は、参院選での“争点隠し”に躍起だが、有権者はこうしたマイナス影響を見抜く必要がある。

(弓削田理絵・編集部、7月12日号)

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